偉人の失敗伝【映画監督・黒澤明】映画に時間とお金をかけ過ぎたら...

仕事や子育てもひと段落したけど、新しく何かにチャレンジすることをためらってはいませんか?そんな人に向けて、『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』(大野正人/文響社)から、誰もが知る偉人たちの大失敗エピソードをお届け。歴史に名を残す偉人の驚くべき逸話が、あなたの人生の「新しい発見」を後押ししてくれるはずです。

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こだわりすぎる


【人物】黒澤明
【出身地】日本
【どんなことをした人?】映画監督


映画監督、黒澤明。かれは日本人なのに「世界のクロサワ」とよばれています。

どうして「世界の」なのかと言いうと、まだ日本が世界と戦えるほどの力をもっていない時代に、黒澤の映画は、世界中から高いひょうかを受けていたからです。世界の映画監督たちにもえいきょうをあたえ、黒澤の映画を参考に、映画史に残る数々の名作、名シーンが作られました。

たとえば、こんな感じです。

『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』(1977 年公開) 監督:ジョージ・ルーカス
⇒『隠し砦の三悪人』(1958 年公開) 監督:黒澤明
世界的に大ヒットした「スター・ウォーズシリーズ」。じつは、この作品に登場する主なキャラクターは、黒澤の『隠し砦の三悪人』という映画に登場した人物を参考にして作られたと言われています。

『シンドラーのリスト』(1993 年公開)監督:スティーヴン・スピルバーグ
⇒『天国と地獄』(1963 年公開)監督:黒澤明
白黒の映画ですが、このシーンに出てくる女の子の服にだけ赤い色がついていました。これは、黒澤の『天国と地獄』で、えんとつから赤いけむりが出るシーンをヒントにして作られました。

『ゴッドファーザー』(1972 年公開)監督:フランシス・フォード・コッポラ
⇒『悪い奴ほどよく眠る』(1960 年公開)監督:黒澤明
マフィアの世界をえがいた『ゴッドファーザー』。この映画は、結婚式のシーンから始まりますが、これは、同じく結婚式から始まる黒澤の『悪い奴ほどよく眠る』をまねて作られました。

どれも、大人ならほとんどの人が知っている、有名な作品ばかりです。どうして黒澤は、ここまで世界中からみとめられ、愛されたのでしょう。

そのひみつは、自分のやりたいことに、とことんこだわり、てっていてきに作りこむ、そのさつえいスタイルにありました。でも、このすばらしいはずのやり方が、後に大きな失敗をまねくことになってしまったのです。

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なんと、「世界のクロサワ」が、映画を作らせてもらえなくなってしまったのです!

ひとつの作品をてっていてきに作りこむのが黒澤流。そのこだわりはハンパなく、ただ歩くだけのシーンも、自分のイメージに合うまで何度もとり直す。馬に乗るシーンでは、理想の馬を作るために、何か月も前から馬のトレーニングをする。まずしい農民のいしょう作りでは、完成したいしょうをいったん土にうめ、何日かおいてからほり出してタワシでこすり、さらにスタッフがじっさいに着て生活することで古びた感じを出すなど、細かいところまで決して手をぬくことはありませんでした。

こんなやり方をしていれば、時間とお金がかかるのは当たり前。それでも、役者やスタッフは黒澤のこだわりをりかいし、ついていきました。問題は、映画を作るお金を出し、できた映画のせんでんなどをする映画会社です。黒澤は映画会社から、とにかくきらわれていました。

そのため、作品が海外の映画祭でたくさん賞をもらっているにもかかわらず、「黒澤の映画はお金がかかりすぎる」と、すべての映画会社から協力をことわられてしまったのです。

アメリカの映画会社から「監督をやらないか?」とさそわれたこともありましたが、アメリカでのさつえいはうまくいかず、作品は完成しない。「それなら自分で」と、黒澤自身がお金を用意して映画を作りましたが、これがまったくヒットせず、大失敗......。

つかれはてた黒澤は、とうとう自分で命をたとうとするほどに、おいこまれてしまったのです。

大好きな映画がとれず、生きることもギリギリだった黒澤。でも、ここで、救いの手がさしのべられます。それは、なんとロシアからでした。

ロシア文学のファンだった黒澤は、以前『白痴』というドストエフスキーの小説を映画にしたことがありました。この映画がロシアで高いひょうかを受けていたこともあって、ロシアからえんじょの申し出があり、監督としてふたたびメガホンを取ることができたのです。

完成した作品『デルス・ウザーラ』は、大ひょうばんとなり、いくつもの賞をもらいました。その後も、黒澤は映画を芸術とみとめる人や国からえんじょを受け、88才でなくなるまで、大好きな映画をとり続けました。

作品づくりにお金をかけすぎて、日本の映画会社からきらわれた黒澤明。でも、そんなかれを救ったのは、他でもない、これまでこだわって作ってきた最高の作品たちだったのです。

作品はうらぎらない。全力をぶつけて何かを作るけいけんは、たとえそのときは失敗しても、後で必ず大きな成功を運んできてくれます。

また、黒澤は言います。

「愚劣なものがはびこれば、選択する力は落ちる。そうなると良い才能が育たない」

愚劣とは、バカらしく何の価値もないこと。愚劣な作品ばかり見て育った人は、どれだけ才能があっても、良い作品を作ることができない。だから、黒澤は自分のためだけでなく、未来の映画界のためにも、良い作品を作り続けたのです。

だから、名作とよばれる作品を、できるだけたくさん観ておきましょう。これは、物を作る仕事だけでなく、あらゆる仕事をする上で、必ずプラスになります。

名作には、作り手たちの「たましい」がこめられています。このような作品に数多くふれておくと、自分が何かしなければいけないとき、これまで観てきた名作たちが、自分のたましいのもやし方を感覚で教えてくれます。

自分が心から楽しめ、さらに人からみとめられるような仕事ができるかどうかは、このたましいをもやす感覚をもっているかいないかで、大きく変わります。

イラスト/死後くん

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大野正人(おおの・まさと)

1972年、東京都生まれ。文筆家。絵本作家。『こころのふしぎなぜ?どうして?』(高橋書店)を含む「楽しく学べるシリーズ」は累計200万部を突破。著書に絵本『夢はどうしてかなわないの?』『命はどうしてたいせつなの?』(汐文社)、『一日がしあわせになる朝ごはん』(文響社)など。

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『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』

(大野正人/文響社)

手塚治虫に黒澤明、オードリー・ヘプバーンやケンタッキーのあの人まで、みんな失敗したからこそ有名になった!?歴史に名を残す23の偉人がおかした、目を覆いたくなるような大失敗図鑑。子ども向けに分かりやすい文章と面白いイラストでまとめられていますが、新たな挑戦に憶病になった大人こそ読みたい一冊です。

※この記事は『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』(大野正人/文響社)からの抜粋です。

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