偉人の失敗伝「音楽家・ベートーヴェン」独りぼっちで生活したら...

仕事や子育てもひと段落したけど、新しく何かにチャレンジすることをためらってはいませんか?そんな人に向けて、『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』(大野正人/文響社)から、誰もが知る偉人たちの大失敗エピソードをお届け。歴史に名を残す偉人の驚くべき逸話が、あなたの人生の「新しい発見」を後押ししてくれるはずです。

偉人の失敗伝「音楽家・ベートーヴェン」独りぼっちで生活したら... 034-003-056-057-main.jpg

「助けてくれ」と言えない


【人物】ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
【出身地】神聖ローマ帝国(ドイツ)
【どんなことをした人?】音楽家


「ダ・ダ・ダ・ダーン!ダ・ダ・ダ・ダーン!」

この文字を読んだだけでも、思わずメロディが頭にうかんだという人も多いのではないでしょうか?

文字だけでメロディがうかぶくらい有名なこの曲『運命』を作ったのが、ベートーヴェンという人です。ベートーヴェンが初めてこの曲をひろうしたのは、今から200年以上前の1808年。つまり、200年以上もの間、この曲は人々の心に残り続けてきたのです。

もちろん、『運命』だけではありません。『田園』『月光』そして、日本で年末に必ず歌われる『第九』など、さまざまな名曲を生み出しています。また、ベートーヴェンは、音楽界の歴史を大きく変えた人でもあります。

ベートーヴェンが音楽家になる前まで、音楽は貴族のものでした。作曲家は貴族からお金をもらって曲を作り、えんそう家は貴族にお金をもらってえんそうする。これが、それまでの音楽のあり方でした。

しかし、ベートーヴェンは、貴族からの注文を受けず、自由に音楽を作る道を選んだのです。ここから、音楽は今のように「だれもが楽しめるもの」へと変わったと言われています。

さらに、もうひとつわすれてはいけないこと。それは、ベートーヴェンが28才ごろから、ほとんど耳が聞こえなくなっていたということです。耳が聞こえなければ、ふつう、音楽を作ることはまず無理です。しかし、ベートーヴェンは、歯でピアノの音の「しんどう」を感じ取るしくみを作り、それで音を感じながら作曲を続けたと言います。

どんなにツラいことにも負けない心を「不屈」と言いますが、耳が聞こえなくなっても作曲を続けたベートーヴェンは、まさに「不屈の音楽家」と言えるでしょう。

さあ、こんなにすごい人が、いったいどんな失敗をしているのか、気になりますよね?

偉人の失敗伝「音楽家・ベートーヴェン」独りぼっちで生活したら... 034-003-058.jpg

20代のころから、耳が聞こえづらくなったベートーヴェン。しかし、かれはそのことをだれかに打ち明けることができませんでした。ベートーヴェンが残した手紙には、こう書かれています。

「もっと大きい声で話してください。さけんでください!わたしは耳が聞こえないのですから!わたしにはどうしても、そんなことを言うことができなかった......」

7才のころから、えんそう家としてかつやくし、作曲家としても有名だったベートーヴェンの耳が、聞こえないことが広まったら......。「ベートーヴェンは、もう終わりだ」「かわいそうに」多くの人がそううわさしたでしょう。

ベートーヴェンは、そんなことはたえられないと思ったのかもしれません。耳が聞こえづらくなってから5年間、かれはそのことをかくすため、なるべく人と会わないようにくらしたのですが、これが失敗でした。そんな生活をしていると知った人々が、「世間ぎらい、人ぎらいのベートーヴェン」とうわさしたのです。それを知り、さらに深く落ちこんだかれは、こんなことを書き残しています。

「わたしは、人がきらいなわけではない。世間からはなれているのは、耳を休ませるためだ。それなのに、だれもそのことをわかってくれない」

もともと、おこりっぽい性格だったベートーヴェンは、ひとりぼっちな生活の中で、いかりを自分自身へと向けるようになりました。聞こえない耳をもった自分の運命をのろい、ついには、自分で自分の命を終わらせることを考えながら生きるようになってしまったのです。

ベートーヴェンが、もし、自分の耳が聞こえないことについてみんなに話していたら、どうなっていたでしょう?<

「耳が聞こえないから助けてくれ」とお願いすれば、すでに有名人だったかれのことですから、きっと多くの救いの手がさしのべられたはずです。

そう、ベートーヴェンの失敗は、人に助けを求められなかったこと。

ひとりぼっちで、心の助けを求められる人がいないようなじょうたいを「孤独」と言いますが、ベートーヴェンは、助けを求められなかったことで孤独になり、生きることすらツラく感じるようになってしまったのです。

でも、ここでひとつ、考えてもらいたいことがあります。そもそも孤独って、そんなに悪いことなのでしょうか?

たしかに、ベートーヴェンのように、自分の命を終わらせたいと思うほど孤独になってしまうのは、きけんです。しかし、人生には、孤独にならないと見つけられないものもあります。

ベートーヴェンの場合、それが「音楽」でした。暗い場所にいると、わずかな光でも明るく感じるように、心も暗くなるほど、そこに差しこむひとすじの光を見つけやすくなるものです。

孤独と絶望の中、ベートーヴェンは気づきました。

「自分は音楽という芸術を作り出すまで、この世をみすててはならない」

こうして、これまで以上に作曲に打ちこむようになり、その結果、何百年たっても色あせない、名曲の数々を生み出すことに成功したのです。

夢を聞かれることも多いと思います。すでに夢をもっている人もいるかもしれませんが、中には「夢なんてない」「わからない」という人も、きっと多いことでしょう。

でも、それでいいのです。じつは、本当の夢というものは、そんなにかんたんに見つかるものではありません。それでも、「自分にできることや、やりたいことを見つけて、夢をもちたい」と思うなら、ベートーヴェンを見習って、思い切って孤独の中に入ってみるのも悪くない方法です。勇気を出して人からはなれ、ひとりになって、自分と向き合う。

じつは、このようにして見つけた夢のほうが、かないやすかったりします。

イラスト/死後くん

すごい人ほどすごいダメだった!「失敗図鑑」記事リストはこちら!

偉人の失敗伝「音楽家・ベートーヴェン」独りぼっちで生活したら... 034-shippai.jpgベートーヴェンからスティーブ・ジョブズまで、世界の偉人23人の失敗がポップなイラストと一緒に紹介されています

 

大野正人(おおの・まさと)

1972年、東京都生まれ。文筆家。絵本作家。『こころのふしぎなぜ?どうして?』(高橋書店)を含む「楽しく学べるシリーズ」は累計200万部を突破。著書に絵本『夢はどうしてかなわないの?』『命はどうしてたいせつなの?』(汐文社)、『一日がしあわせになる朝ごはん』(文響社)など。

shoei.jpg

『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』

(大野正人/文響社)

手塚治虫に黒澤明、オードリー・ヘプバーンやケンタッキーのあの人まで、みんな失敗したからこそ有名になった!?歴史に名を残す23の偉人がおかした、目を覆いたくなるような大失敗図鑑。子ども向けに分かりやすい文章と面白いイラストでまとめられていますが、新たな挑戦に憶病になった大人こそ読みたい一冊です。

※この記事は『失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!』(大野正人/文響社)からの抜粋です。

この記事に関連する「趣味」のキーワード

PAGE TOP