40-50代の方にも根強い人気を誇る詩人・書家の相田みつをさん。「書の最高峰」のひとつとされる「毎日書道展」に7年連続で入選するなど、書家としての技巧もさることながら、平易でどこか温かな視点を持った「詩」と「書」を融合させたスタイルで、60歳での詩集『にんげんだもの』で多くの人の心をつかんだことは、皆さんよくご存知でしょう。そんななか、「令和の相田みつを」と期待される現代美術家・書家の方がいらっしゃるのをご存知でしょうか?
書+詩+画の三重奏
その注目のアーティストの名前は小林勇輝さん。先にご紹介した「毎日書道展」で、10 回連続入選の実績を持つ、39歳の書家です。小林さんの魅力を説明するには、作品をご覧いただくのが早いでしょう。まずは「くじらじかん」と名付けられた下の作品を見てください。
皆さんの目に、雄大な雰囲気をたたえて泳ぐ「くじら」が飛び込んできたと思います。
そしてよく見ていただくと...くじらの中に「文字」が見えてきたのではないでしょうか。そう、このくじらを構成しているのは「書」で描かれた198個の文字なのです。
流麗なカタカナの中に、「生」「游」「越」などの漢字が躍動し、文字がくじらそのものを生き生きとさせています。
さらに面白いのは、この198文字をまさに"文字通り"「文字」として追うと、くじらが途端に「美しい詩」を奏で始めることなんです。
くじらじかん
洋(ウミ)ニハ西モ東モ無ク 流レル血潮ニ境ハ無ク
モトモト世界ニ壁ハ無ク
全テマアルクツナガッテルノデ
生命(イノチ)ノママニ デッカク
タダヨウコトヲ許サレル
游グ 水平セン
モグル 宙(ソラ)ノカナタ
越エル ゲンカイテン
イノチノママニ オヨグモグルコエル
イノチノアルマニ オヨグモグルコエル
イノチノママニ イノチノアルマニ
青イウタゴエイツマデモ 生キ生キ輝ク
地球ノ青ヲ 祈ッテル
イノチノママニ イノチノアルマニ
イノチノアルマノ イノチノ ママ ノ、
イノチニ イマ
もう一度くじらの絵を見てください。尾びれから大きな体へ...くじらが「詩で出来ている」ことがわかるはずです。
この、自らの「詩」を「書」で「画(カタチ)」にして描く「言葉の結晶」という手法こそ、小林さんの魅力。2017年には、ニューヨークのアートショー「SCOPE」で個展を開催、現地で絶賛されるなど、特に海外で高く評価されてきました。
『いのちなみうち』が誕生した、伊勢現代美術館での個展の様子。10月11日~16日には、東大寺総合文化センター(東大寺ミュージアム)での個展も決定しています。
同書を刊行するハガツサブックス代表の千吉良美樹さんによると、小林さんのこの手法は、氏が25歳で書いた詩が「偶然"翼"の形になった」ことから生み出されたと言います。
「表題作である『いのちなみうち』は、海沿いにある伊勢現代美術館で、著者がライブペインティングを行った際に誕生した作品なんです。すべての命を生み出す海と、その海に感じる生命力の強さ。それらを"文字の波"として、くじらのカタチを取って描かれたものです。小林氏の作品に宿る『生命』の持つ美しさや強さ、『書』という伝統文化を昇華させた芸術性、そして日本語の持つ美しさを、ぜひ感じていただきたいです」(千吉良さん)
岐阜県下呂市で開催された個展の様子。個展会場は、その空間全体が小林さんの作品となります。
10月には奈良・東大寺でのライブペインティングも決定し、今後間違いなく注目を浴びる若きアーティストの作品集。ご興味のある方は、ぜひ手にとって、小林さんの「三位一体の魅力」を感じてみてはいかがでしょう。
表題作『いのちなみうち』を音に合わせて書く、ライブペインティングの様子。「myakujin(ミャクジン)」というユニットで、活動をしている
『いのちなみうち 小林勇輝作品集』(HagazussaBooks・ハガツサブックス)。小林氏自身が選りすぐった35点を収録。詩と書と画(カタチ)が三位一体となった作品は必見!