優しさとタフさを兼ね備え、笑顔がとてもすてき鈴木亮平さん。大河ドラマ「西郷(せご)どん」の西郷隆盛役にどっぷりとつかったこの1年。役者として、人間として、「西郷どん」を演じきった"いま"の思いを語ってくれました。
西郷さんの人生に向き合えたことが、僕の宝物
「とにかくありがたい1年だったと思います。大河ドラマ『西郷(せご)どん』の台本と格闘しながら、最高の共演者の皆さんやスタッフさん......いろいろな人たちと作品を作り上げていく中で、たくさんの素晴らしい体験もさせていただきましたし、自分の至らないところも嫌というほど突きつけられました。でもそれは僕にとって成長でした。こんなにも役者として成長させていただける場は、大河ならではだと思います。そして"西郷さん"という人の人生と向き合えたことが、いちばん、自分にとっては大きなことでした」。
革命編、明治編と時を経るに従い、「西郷どん」も薩摩藩の指揮官として冷酷な面や、激しい表情も見せ、目まぐるしい変化が表現されました。でも演じる鈴木さんの気持ちは変わらなかったと言います。
「革命編で戦(いくさ)をしている時も、徳川慶喜のことを決して憎んでいるわけではありません。民のため、国のために冷酷な覚悟を持たなければいけないという思いなので、基本的に西郷さんは優しさの上で動いていると思います。でも自分が指揮官で、一度、戦を始めたなら、"ここでやめてしまったら死んでいった者たちの気持ちはどうなるんだ"と思えば、そう簡単に戦をやめられない。また、誰にどういうことを伝えるかによっては、落ち着きがある姿を見せていかなくてはいけない。社会的ポジションも変わり、自分の見せ方も変わっていったんだと思います。それはたぶん、社会で働くいろいろな人と同じだと思います。
若い時から年を取るまで、徐々に、人物が自然に成長している姿が分かるのが、大河ドラマのすごいところだなと思います。そして、西郷さんの人生を追体験して、いちばん思ったことは "みんな人間なんだな"ということです。教科書に載っているような偉大な人物も、僕らと同じで、弱いところもある。偉人たちをどこか身近に感じました」
スタジオでの撮影は、朝から晩まで続き、大変なことも多かったようですが、特に苦労したのは薩摩ことばだったそうです。
「薩摩ことばを使いこなせるようになるまで、1年かかりましたね。イントネーションが難しくて(笑)。せりふ覚えに5倍くらいの時間がかかるんです。でも、不思議なもので、一つ一つ間違えないように、一生懸命話していると、どこか硬くなってしまって、鹿児島の人たちは"この人薩摩ことば上手じゃないね"と思うみたいです。むしろ、間違っていてもいいから、ワーッと一気にしゃべった方が"薩摩ことば上手だね"と言われることに気付いたんです(笑)。
いまはあまり厳密に考え過ぎずに、多少間違えても"まあ、いっか"と思えるようになってきました(笑)」。
いまも心に残る島編の撮影
どの時間も大切な思い出という鈴木さんに、あえて心に残っている撮影を伺いました。
「奄美大島、沖永良部(おきのえらぶじま)に島流しをされた島編です。西郷さんを演じている中で革命編や明治編を撮っていても"ああ、ちょっと、島編に帰りたいなー"って思い出すんですよね。ずっと帰るわけにはいかないけれど、ちょっと帰って、子どもたちの顔を見たいし、懐かしい人にも会いたいなと(笑)。苦しいシーンも多かったですが、それでもあの自然が全て洗い流してくれたというか......奄美群島の二つの島が心底好きになりました。西郷さんも実際に手紙に書かれているんですよ。"維新が終わったら会いに行くから"と。
島から鹿児島に帰ってきてからは、薩摩の軍をいきなり背負ってしまう。幕府を倒すクーデーの間、西郷さんは、前だけを見て、一生懸命だったと思いますが、自分の周りでバタバタと人は死んでいくわけで、あんなに優しさ、情を持っている西郷さんがそこに何も感じないわけはないと思います。やっぱり苦しかったんじゃないかな。その時に思い出したのは、島の自然や、人の優しさだったんじゃないかなという気がしています。
自分自身は苦しい思いをたくさんしていますが、人間として、楽しかったというか、あの自然の中で、ゆったりした時間の流れが西郷さんには大切だったと思います。
また、島にいる時に"自分は天に生かされているんじゃないか"と思うんです。きっとあの時期があったからこそ、他の幕末の志士たちにはない器の大きさと、やると思ったことに突き進む吉之助(きちのすけ。西郷の幼名)ができあがったんじゃないかと、僕は思いました。
撮影自体も海があるとホッとしますし、ロケなので、共演者の方々やスタッフさんとごはんを食べに行く時間もありましたし、やっぱり島編は楽しかったな、と思い出します」。
大河ドラマ「西郷(せご)どん」
毎週日曜20:00 ~ 20:45 NHK 総合 他
新政府への不満が高まる中、大久保利通(瑛太)は"廃藩置県"を断行。西郷隆盛(鈴木亮平)は新政府への協力を決め東京へ出てきたが、し烈な権力争いに明け暮れる役人たちに嫌悪する。大久保とも意見が分かれ......。
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取材・文/落合佑桂里 撮影/吉原朱美 デザイン/藤原美夏子 ヘアメイク/SHUTARO スタイリスト/徳永貴士