井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。12月は「冬の漲る力を詠む」というテーマでご紹介します。
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山国の虚空(こくう)日わたる冬至かな 飯田蛇笏
十二月二十二日は冬至。一年で最も昼の短い日で、古くから冬至粥や柚子湯などの習慣で親しまれています。この句の「山国」は甲斐。冬の連峰に囲まれた空を「虚空」と捉え、一年で最も低く渡ってゆく「日」を格調高く描いています。
古代中国では冬至を、陰が極まって陽が復するとして"一陽来復"と呼んでいます。衰退した太陽の活力が復活し、新たな力を宿すのです。この句の太陽にも一陽来復の力が漲っています。
作者は一八八五年、山梨県生まれ。数々の名句があり、その名を冠した蛇笏賞は俳壇の最高賞。六二年に七十七歳で逝去。
身のうちに心音(しんおん)ふたつ冬木の芽 日下野由季
葉をすっかり落とした落葉樹の姿はきっぱりと潔く、寒気の中に静かな佇まいを見せています。しかし翌春萌え出す芽はおおむね秋の間に用意されていて、力を蓄えているのです。
この句は胎内に宿った小さな命を、自分の「心音」と重ねて「ふたつ」と詠んだ点が眼目。冬の木々が寒さに堪えつつ「芽」を育むように、いとけない命を慈しむ気持ちが滲んでいます。瑞々しく、幸福感に満ちた句で読む人の心を優しく捉えます。
作者は一九七七年、東京都生まれ。俳誌『海』の若き編集長で、山本健吉評論賞を受賞。近刊の第二句集『馥郁(ふくいく)』よりの一句。