いま、「縄文」という時代が注目を集めています。縄文時代というと、原始的な生活を想像する人も多いかもしれませんが、それは少し違うようです。そこにいたのは、自然や他者と調和しながら、力強く、そして繊細に生きた人々。現代の日本の心の原点があるともいわれる、豊かな暮らしが育まれていました。
日本の美と精神は縄文時代に培われました
「縄文時代は、狩猟、漁撈(ぎょろう)、採集を生業とした生活が約1万年も続きました。これほど長く続いた時代は世界でもありせん。人々は自然の環境や恵みを大切にしながら穏やかに生活していました。個を出さず、周囲の人々や家族、動物とも温かな親交があったと考えられています。『縄文』が注目を集めているのは、複雑な現代社会の中で、そんな生活に魅力を感じる人が多いということかもしれませんね」。
東京国立博物館の考古室研究員、河野正訓さんは、縄文時代についてそう話します。自然との平和な暮らしから発達していった縄文人の精神文化は、儀礼などに使う土偶や土器といった道具も多く生み出しました。
7月3日(火)から開催されている「特別展『縄文―1万年の美の鼓動」では、そんな縄文の世界にふれることができます。見どころの一つは、6件の国宝。縄文時代の遺跡は9万件以上ありますが、出土品の中でも国宝は6件のみ。全てそろうのは今回が初めてだそうです。
「土器や土偶は年代や地域によって形もさまざま。祈りの道具として使った動物形の土製品もありますし、土器は晩期になるほど文様が細やかに。各年代の異なるパワーや縄文の人々の豊かな感性を感じられます」。
木製品などを集めた「暮らしの美」といった展示も。美しく編まれた木製編籠(あみかご/縄文ポシェット)、この頃には製法が確立されていた漆の髪飾りなどからは、身近な素材や手仕事の温もりを大切にし、おしゃれ心も忘れない、当時の丁寧な暮らしぶりがうかがえます。
豊かな自然と調和した暮らしの中で生まれ、力強さと神秘的な魅力にあふれる「縄文の美」。かの有名な芸術家・岡本太郎も魅せられていたといいます。
「縄文の道具からは、現代にも通ずる家族愛や自然への敬意、祈りの本質などを感じることができます。日本人の精神や美的感覚が育まれたこの時代に、日本の美の原点があるのです」。
■縄文時代とは?
約1万3000年前から約1万年続いた時代。この頃、日本列島は温暖で湿潤な気候となり、現在と似た自然景観に。人々は狩猟・漁撈・採集を基本に定住生活を送る。土器や土偶といった道具、装身具なども作り出した。
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取材・文/岡田知子(BLOOM) 撮影/奥西淳二