――年齢を重ねると、どうしても自分の馴染んだものに固執して、新しいものに目が向かなくなると思うのですが。
いずれは私もそうなる可能性があると思っています。
ただ最近は、お友達の箭内道彦(やないみちひこ)さんが教授を務めていらっしゃる東京藝術大学の学生たちとも交流し、いろんな刺激をもらっています。
元々は、コロナ禍で学生たちが不自由な思いをしているというニュースを見たことがきっかけでした。
それが気になり、箭内さんに「一緒に何かやりませんか」と相談したところ、藝大の学生たちが私の芸能活動50周年のポスターやジャケットの制作に協力してくれることになったんです。
それから、学園祭や展覧会にも行くようになって。
彼らを見ていると、私たちの世代とは感覚が全然違うので、いろんな刺激があって、楽しいですね。
「最近、戦争のニュースを見ていると、平和も幸せも、当たり前のようにあるのではなく、自分たちがそこに向かって行動しなければ手に入らないんだなと、すごく思います。そのために自分に何ができるのか、考えながら日々を過ごしたいですね。自分たちだけでなく、子どもたちの未来のためにも」
あくまでも親は親、子は子でも、互いに信頼
――母親でもある石川さんは、仕事と子育ての両立に苦労はありませんでしたか。
皆さんと同じように、うちの娘も年相応にいろんなことがありました。
問題を抱えたときは、私も必死に、思い切りぶつかるときはぶつかり、逃げないようにやってきただけです。
ただ、当たり前のことですが、日常の中で、「おはよう」「いただきます」「ただいま」と大きな声で挨拶することは、大事にしてきました。
とはいえ、母一人子一人ですから、密度は高い気がしますね。
つい最近も、私が帰宅後、テーブルで寝落ちしていたら、「自分の部屋で寝たほうがいいよ」と娘に言われました。
以前は「早く寝なさい」と私が言っていたのに、いまでは逆です(笑)。
「友達のような母娘」と言われることもありますが、それよりも「信頼できる母娘」です。
あくまでも親は親、子は子。
でも、お互いに信頼していると思います。
――健康維持も重要ですが、そのために心掛けていることはありますか。
それが実は、何もないんです。
その点は、健康な体に生んでくれた両親に感謝です。
ただ、私は食べることが大好きなので、食生活に関しては、季節のものをいただくようにしています。
野菜でもなんでも、一年中好きなものが手に入りますが、その季節ごとに元気の良いおいしいものをいただきたいね、と娘ともよく話しています。
母が保育士で調理師免許を持っていたので、健康を考えて育ててくれたことが刷り込まれているんでしょうね。
――芸能生活50周年の節目を越えて、今後の目標はありますか。
50周年の一昨年は「残雪」、昨年は「越後瞽女」と新曲を出させていただきました。
これからも"いま、皆さんの心に何を届けたいか"を意識し、素敵な方たちとの出会いを重ねながら、歌を作っていきたいと思っています。
また、高齢化が進む中、私を応援してくださる方も、多くがご高齢になられました。
そのため、大きな街だけ回っていると、聴きに来られない方がたくさんいらっしゃいます。
いまは配信などもありますが、できれば生の歌を聴いていただきたいので、できるだけ小さな街にも歌いに行きたいと思っています。
そうやってこれからも、歌を通して皆さんとお目にかかれることを楽しみにしています。
取材・文/井上健一 撮影/吉原朱美