6月に上演される舞台『パンドラの鐘』に出演される南果歩さんに、同作品のこと、そして日々の生活についてお話を伺いました。
次回作は、野田秀樹の大作
――6月に上演される舞台『パンドラの鐘』に出演する南果歩さん。劇作家・演出家の野田秀樹さんが書き下ろした戯曲をご本人が演出するバージョンと、蜷川幸雄さんが演出するバージョンを同時に上演するという画期的な試みで1999年に初演された話題の舞台が、新鋭・杉原邦生さんの演出で再演されます。
こうして野田さんの作品に参加できるチャンスが巡ってくるなんてすごく幸せだし、いまだからこそ野田ワールドを楽しめそうな気がして。
私にできるかしらと思いながらも、巡ってきたご縁なので、心から楽しみたいと思います。
古代王国と太平洋戦争開戦前夜の長崎、時空を超えて二つの時代を行き交う作品なので、劇場空間でしか生まれない醍醐味を味わえるのではないかと。
演出の杉原さんは戯曲に新しい風を吹き込む人。
4年前に『オイディプスREXXX』でご一緒しましたが、ギリシャ悲劇にラップを取り入れつつ、作品の本質を損ねないんです。
なるほど、面白いなと思いながらご一緒したので、どんな『パンドラの鐘』になるのか、楽しみに観に来ていただきたいです。
大変なときこそひとりで抱えない
――今年2月には著書『乙女オバさん』を出版されました。闘病のお話もありましたが。
病気だとか自分のネガティブな情報って、なかなか他人に話せないと思うのですが、私は逆の発想で、そういうときこそ人に打ち明けて、オープンにするんです。
するといろんな方から、良い情報を得られます。
私の知らなかったことや治療法などを教えてくださるんですね。
病気になると、その都度、自分で判断しなければならないことがありますが、判断材料として情報を集めることは大事です。
それは出産時の経験が大きかったと思います。
機械的に進められている診察に耐えられなくなり、転院を望んだのですが、90年代半ばの頃は産科不足もあり、簡単にはいかず、妊婦の意見や思いを病院に伝える術がありませんでした。
まるで大海原に投げ出されたような気持ちになりました。
その経験があったから、やはり情報は大事だなと。
数年前にうつ病になったときもそうでした。
知識があることで、自分により良い選択ができるし、不安もある程度は解消されますから。
その時期、いちばんつらいのは眠れないことでしたね。
頭がぼんやりしているので、思考が停止したような感じでした。
そこで私はその場所から離れることにしたのですが、それが回復のスタートになりました。
環境を変えて、新しい空気を体に入れたことが私には良かったのだと思います。
そしてもう一つ、愛犬に救われました。
動物の力ってすごい。
野生に生きているので、喜びもダイレクトに伝えてくるし、食べる・寝る・遊ぶで1日満たしているじゃないですか。
生きるってこういうことだと教えてもらいました。
過去を振り返るな未来を憂うな
――いまは息子さんご夫婦と同居されているそうですね。どんな距離感なのでしょう?
息子夫婦と私は別ユニットと思っていますので、二人のことは二人に任せています。
ひとつ屋根の下にいるので、今日も「取材日なんだよ。行ってきます」って出てきましたが、彼らの全てを把握しようとせずに、接点は喜んで受け入れ、二人が相談してこない限りは見守っているというか。
なんかね、びっくりするぐらい仲がいいんですよ。
――嫁と姑でとても仲が良いと言える関係はあまりないと思いますが、すてきですね。
実は元姑ともいまだに超仲良しなんです。
でも、長く続く関係も、そうでない関係もありますよね。
根っこにあるのは、どちらにも期待していないってことでしょうか。
私は案外ドライなのかもしれません。
情にほだされつつも、去る者に関しては、いままでありがとうという気持ちだけを残し、後追いはしない。
長く続いている関係も、それが永遠とは思っていないんですよ。
人間、所詮ひとりだしな、ぐらいに思っています(笑)。
「病気のとき、誰かに相談することは大事。人に心配をかけたくないという気持ちもあると思うけれど、信頼できる人には打ち明けてもいいと思います。そこで助けられることも、巡り巡って自分がサポートできることもありますから」
―― 一方で、人とのつながりを活用し、コロナの広がり始めた頃、マスクを個人的に輸入し病院に届けたそうですね。
自分にできることをやりたいという気持ちが強いです。
友人が実行委員をしている、ウクライナ映画の支援をしています。
2019年の東京国際映画祭に出品された『アトランティス』という映画で、戦争が終わった後の近未来のウクライナを描いています。
まさにいまだということで、クラウドファンディングで資金を募って、字幕を付けて、一般上映を目指しているんです。
その作品のヴァシャノヴィチ監督は現在もウクライナに留まって、自国の現状をカメラに収めているそうなんですよ。
同じ映画人として、私も何か力になりたいと思いました。
――行動力に驚かされますが、同じくエネルギッシュな瀬戸内寂聴さんとも長年にわたって交流があったそうですね。
はい。
先生は本当に面白いんですよ。
時折、お住まいの「寂庵」に行くと、もうちょっとゆっくりしていきなさい、夜ご飯も食べていきなさいっておっしゃっていただき、ずるずると長居して、先生のお仕事の邪魔をしていたのですが、応接間の裏側に"修羅BAR"というのがあって、「好きなの飲みなさい、明日どうなるかなんて誰も分からないんだから」っておっしゃるんです。
「そうですか先生」って言っていちばんいいシャンパンを開けたりして。
でも、それは真理なんですよね。
先生の仏教の教えで「過去を振り返るな、未来を憂うな、いまを生きろ」というのが言葉の端々にいつもありました。
「いまを切に生きなさい」という先生の教えは、私の中で生き続けています。
――以前、寂聴さんとのトーク番組で、家族といる自分と、そこに収まりきれない自分がいるとお話しになっていましたね。
当時は結婚生活を送っていたので、そう思っていたんでしょうね。
いまはひとりで生きていて、ちゃんと孤独になれる時間を持てています。
自分と向き合って、その日あったことを反芻して、浸透させる時間というか。
そういう時間がとても大事なんだなと思っています。
人間関係でも何でも、年齢が進むと、いろいろなものを縮小していくというじゃないですか。
でも、終活のための片付けみたいなこと、私はとても苦手です。
だからもう広げっぱなし(笑)。
諸先輩の話から、人生には折り返し地点というものがあるのかなと思っていたのですが、自分が50代を迎えて、折り返しなんて、どこにもないことに気付きました。
一歩踏み出すのなら、折り返すのではなく、最後まで前に進みたいと思っています。
――最近はアメリカのドラマ「PACHINKO(パチンコ)」にも出演されて。
デビュー作も今回も、大事な作品の出演はオーディションでつかんでいますね。
本当ですね。
オーディションって血湧き、肉躍るんです。
この役をもらえたら、ちょっと別世界が広がると思うと、楽しいんですよ。
私の野性が目覚めるのかも(笑)。
いつどこでどんな作品と出合えるかは分からないですけど、一俳優として、いつお話が来ても、「ハイ、私やります!」って言えるぐらいの軽やかさでいられたら、と思います。
トップス34,100円、スカート49,500円/ミランニ(ドレスアンレーヴ)、イヤーカフ36,000円、ネックレス100,000円、リング185,000円、ブレスレット145,000円/ブリジャール
【問い合わせ先】ドレスアンレーヴ(電)03-5468-2118、ブリジャール(電)03-6222-9982
取材・文/多賀谷浩子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク/国府田圭 スタイリスト/坂本久仁子