3月から始まる舞台『奇蹟』で、井上芳雄さん演じる記憶喪失の名探偵と共に、謎の事件に挑む医師役を演じる鈴木浩介さん。俳優としての歩みについて聞きました。
年をとって、できるようになること、できなくなること。その変化も楽しみなんです。
本当は謎解き、したくないんです!?
――今回の舞台は、鈴木さんの長ぜりふから始まります。
最初に舞台に出て、お客様に語りかけながら物語へと案内する役割なんですが、本当に、どうしようって感じです(笑)。
そもそも僕、謎解きって苦手なんです。
できるだけ平穏に過ごしたい方でして、怖い話とか苦手で...だから事件の謎、本当は解きたくないんです(笑)。
――そもそも舞台の世界に入られたのは、西田敏行さんがきっかけだそうですね。
そうです。
小学4年生の時、再放送していたドラマ『池中玄大80キロ』に感動して。
大学進学で東京に来てから、西田さんのプロフィールを調べたら、青年座のご所属だと知り、会えるかもしれないという一心で青年座の試験を受けました。
結果的に研究生になれたのですが、それまで演劇なんて見たこともなかったんですよ(笑)。
でも入ってから、その面白さに目覚めました。
研究生になって初めて、自分が大学生活とは合っていなかったと分かったんです。
なぜ僕は興味もないサークルにいるんだろうというモヤモヤが吹き飛んで、こんなに面白い世界があったんだと思いました。
僕が恵まれていたのは、演劇をやっていく中で、素晴らしい先輩方に出会えたことです。
例えば、浅野和之さんには舞台での立ち方や歩き方、段田安則さんには「相手のせりふをよく聞いて大きな声で話しなさい」ということを教えていただきました。
いずれも基本中の基本ですが、俳優にとっては、これがいちばん難しい一生のテーマなんです。
相手のせりふをよく聞くということは、相手のことを考えて、どうすれば相手がやりやすいのか、常に考えることでもある。
だから、究極、自分のことは見えていなくてもいいんです。
それは相手が輝かせてくれるから。
......ということは、今回の主役は芳雄くん。
全部、お任せしようと思います(笑)。
――井上さんとは九州の同じ高校のご出身だそうですね。
そうなんです。
同郷ですが、芳雄くんは緻密にお芝居を積み上げて本番に向かうタイプ。
僕はもっと適当というか(笑)。
相手役の方によって本当に変わるので。
"壊れた精密機械"と言われたことがあるぐらい(笑)。
ただ、今回は語り部役でもあるので、僕が壊れたら大変です。
ちゃんとした「精密機械」を目指したいと思います。
あと20年は走り続けないと
――すてきな先輩方のお話がありましたが、年齢を重ねることについては?
楽しみですね。
俳優の仕事は、年をとることがプラスになりますから。
いままでできなかったことができるようになったり、その逆もある。
その変化も楽しみになりました。
でも、この仕事は求められなくなれば、おのずと終わる厳しい仕事。
そういう覚悟は常にありますが、昨年、47歳で子どもを授かりまして...。
だから、あと20年は走り続けないと(笑)。
今回の『奇蹟』は1980年代から精力的に新作を書き続けておられる北村想さんの戯曲で、言葉も瑞々しいし、事件の解決法も、よく考えつくなと思うような斬新な発想です。
そういう戯曲のエネルギーも感じていただける舞台になると思います。
それに芳雄くんとは、コロナ禍で本番直前で中止になった『櫻の園』という舞台で初共演の予定だったんですが、今回やっと実現します。
この未完に終わった舞台が本当に残念で、いまもそのことは、心のどこかで乗り越えられていない気がしています。
だからこそ、『奇蹟』は何としても最後までやり遂げたいですね。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク=国府田雅子(barrel) スタイリング=久修一郎(インピゲル)