仕事や家庭で、自分の言いたいことがうまく伝えられない。それは、「正しい伝え方」ができていないからかもしれません。そんな悩みが解決できるテクニックがまとめられた書籍『新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』(藤沢浩治/文響社)から、「正しく伝わる表現方法」を一部抜粋してご紹介します。
郵便ポストと選挙の候補者の共通点
郵便ポストに二つの投函口がつくようになったのはいつの頃からでしょうか。
初めのうちは例3―22(違反例)のような表示がついていました。
「その他の郵便」という表現は抽象的です。
たとえば速達(封書でもはがきでも)は、どちらの投函口でしょうか。
海外への手紙はどちらに入れるのでしょうか。
幸いにも、現在では改善例のように具体例があげられています。
例3―23(違反例)は、私の友人の勤務先で経理管理部門から各部門へ配布された通達です。
この本のネタになるだろうと見せてくれました。
友人の会社ではこの文書が配布されるやいなや、基準があいまいだと物議をかもしたそうです。
なるほど「費用が著しく大きい場合」とは、一体どんな場合を指すのかあいまいです。
「事務機器」というのも範囲が不明確です。
たとえば改善例のように、数値や具体例を示せば少しは明確になったのではないでしょうか。
選挙のたびに聞かされる政治家の主張も意味不明です。
郵便ポストの差入口の説明のように、具体的になるといいのですが。
もっとも候補者にしてみれば、選挙に勝つために必要なのは、具体的な政策ではないのかもしれません。
なぜ「抽象的」は分かりにくいのか
よく「抽象的で分からない」とか「分かりにくいので、もう少し具体的に言ってもらえますか?」などと言います。
抽象的とは、講談社の『国語辞典』によれば、「①とらえどころがなく、はっきりしないさま。
実際の用途・便役からはなれているさま。
②抜き出した共通な性質を総合して、本質的、一般的な面だけをとりあげるさま」とのことです。
一方、具体的とは「①実際に形をそなえ、役立つさま。②実際にあるさま。知覚できるものとしてあるさま」という意味になります。
この説明からも、私たちが日常的に受け入れている「抽象的=分かりにくい」「具体的=分かりやすい」という考えに合点がいきます。
「抽象的ですね」と言われたら、普通は、けなされていると感じ、ほめられているとは思わないわけです。
ところで、なぜ、抽象的だと分かりにくく、具体的だと分かりやすいのでしょうか。
さきほどの辞典の定義を大胆に言い換えると、抽象的とは、「分類名」で語ることをいい、具体的とは、その分類内の「構成要素」で語ることをいいます。
たとえば「動物が好きです」というのが抽象的で、「犬が好きです」というのが具体的です。
「犬が好きです」をもっと具体的にすれば「柴犬が好きです」となります。
「動物」は分類名で、「犬」は、その中の一構成要素です。
また、同様に「犬」を分類名と考えれば「柴犬」は、その中の一構成要素です。
つまり抽象的表現が分かりにくい理由は、分類名で語っているため、範囲が広すぎるからです。
「乗り物が好きです」(抽象的)という表現と「大型豪華客船が好きです」(具体的)という二つの表現を比較すれば、前者のほうが分かりにくい理由が明白になります。
「抽象性の分かりにくさ」とは、「範囲の不確定」なのです。
これでルール9ができます。
分かりやすい表現のルール「具体的な情報を示せ。」
【最初から読む】大切なのはサービス精神!読み手への配慮がわかりやすさを生む
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ベストセラーの新装版。分かりにくい表現16の原因と解決方法を全4章で紹介しています