井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。1月は「平仮名とカタカナ表記」というテーマでご紹介します。
傷口のかがやいてゐる雪達磨 今井杏太郎
新年の訪れは、自然にも人にも輝きをもたらしてくれます。
とりわけ雪のお正月は、郷愁に満ちた輝きに溢れています。
この句は、平明そのものですが、「雪達磨」の「傷口」を詠んだ人などいません。
叩いたり、えぐったり、枯れ枝を差し込んだりと「雪達磨」は満身創痍。
「傷口」という言葉のもつ生々しさを、「かがやいてゐる」という平仮名表記が包み込むようで、眼差しの優しい句です。
作者は1928年、千葉県生まれ。精神科医。「魚座」創刊・主宰。冒頭の句を収めた『海鳴り星』で俳人協会賞を受賞。2012年没。享年85。
決勝のスプリンターの淑気かな 仙田洋子
2020年は東京オリンピック・パラリンピック開催の年。
たくさんのドラマが誕生することでしょう。
「淑気(しゅくき)」は天地に満ちる清らかで厳粛な気を表す季語。
一方「スプリンター」は短距離の走者、あるいは滑走者などのこと。
新年早々の「決勝」ですから、スピードスケートなど、氷上の決戦でしょうか。
スタートラインに立った「スプリンター」の闘志溢れる姿が見えます。
カタカナ表記が新鮮で、句に躍動感をもたらしています。
作者は1962年、東京都生まれ。「秋」「天為」同人。論・作ともに優れた注目の作家。近刊『はばたき』よりの一句です。