新元号「令和」は、それまでの元号のように中国の古典からではなく、日本最古の歌集、万葉集からの出典であることが大きな話題となりました。
初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして
気淑(きよ)く風和(かぜやわら)ぎ
梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き
蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かおら)す。
(梅花の宴、三十二首に先立ち記された大伴旅人の序文の一部)
新元号の考案者と目され、いま注目を集めているのが、国文学者で万葉集研究の第一人者、中西進さん。90歳の現在も研究に力を注ぎ、講演に飛び回る中西さんに、万葉集に学ぶ生きる強さについてお話していただきました。
前回記事:「3歳で俳句を詠んだことが人生の原点」令和で注目!国文学者・中西進さんインタビュー
万葉集の人間愛の強さは、生きる強さにつながる
――万葉集の魅力とは、どんな点にありますか?
「万葉集は、愛や恋を詠んだ「相聞歌」、人間の死に関わる「挽歌」、相聞歌・挽歌以外の「雑歌」に分類されていますが、始まりは、「雑歌」からです。
中国の辞書で「雑」を引きますとね、「五彩なり」と書いてある。
多彩で複雑。いろいろな色が混ざり合って素晴らしいということ。
だから、雑な人間だ!と言われたら、「ありがとうございます」と言わなければいけない(笑)。
万葉集の歌は人間愛が強いから生きる力をもらえる。
歌の評価も、人間味があるかないか。そこが魅力です。
ところが古今集以降は、歌がうまいかへたかが、評価の対象になっていく。
いまの世の中も分析分析で、うまく整理整頓していくことを科学的で優れていると評価されているけれど、僕に言わせれば、それは面白味が足りない。
だって、整理整頓された無色透明で無菌室みたいな人間と結婚してごらんなさい。
つまらないからすぐに離婚ですよ(笑)。
――では、中西さんが、いちばん好きな万葉集の歌は?
若い頃からずっと好きな歌があります。
吾が恋は まさかもかなし 草多胡の入野の 奥もかなしも
「まさか」は現在、「奥」は未来の意味。現在もこの先も、思い通りにならない恋は哀しいという歌。
恋は愛(かな)しいものなのです。
――最後に、令和はどんな時代になってほしいですか?
十七条憲法に「和を以って貴しとなす」とあるように、日本はこれまでずっと「和」を求めてきた。
元号で使われるのも、今回が20回目です。
ところが、「平家にあらずんば人にあらず」と武士がいばり、「軍人にあらずんば人にあらず」とばかりに軍人たちが無駄な戦争をしてきた。
そして戦後は、自由をただ謳歌して平和ボケしている。
チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言われても仕方がないですよ(笑)。
人間、自由を謳歌するだけではすぐに堕落してしまう。
これは、歴史をひもとけば分かることです。
そこで必要となってくるのが、「令」。令とは、ひと言で言えば、「自律」です。
ストイシズムと言ってもいいですね。
元号は、天の声で決まるものと思っていますが、今回初めて「令」の文字が選ばれたのも、いまの時代に本当に必要だからでしょう。
自らを律して生きていく時代になってくれることを、個人的にも渇望していますね。
すてきだなと思う人には「令」があります。
令和になって初めての新年。玄関に「令」という字を書いておくと、いいのではないでしょうか。