「他人の気持ちを考えるのは難しい。でも...」松山ケンイチさんインタビュー

『かもめ食堂』の荻上直子監督最新作『川っぺりムコリッタ』で主人公・山田を演じた松山ケンイチさん。ボロアパート「ハイツムコリッタ」に引っ越してきた孤独な青年が、ワケアリな住人たちと出会い、困惑しながらも変化していく様を自然体で、チャーミングに演じています。

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食わず嫌いだった塩辛を取り寄せてしまいました

――食事シーンがどれもおしそうで印象的でした。

荻上さんの映画は料理番組やCMのように食事シーンをこだわって撮っているんですけど、実際食べてもおいしいんですよ。

この作品をやる前はイカの塩辛を食わず嫌いしていたんですけど、食べてみたらすっかりはまって、山田が働いている塩辛工場を貸してくださった会社の塩辛を取り寄せてしまいました(笑)。

おいしそうというだけでなく、食事のシーンは意味も深い。

ハイツムコリッタの住人たちがすき焼きを囲むシーンは、みんなでごはんを食べる幸せ、生きる喜びを共有する大切さが表現されているんですよね。

家族のようだけど家族じゃない、そういうコミュニティーの有り様が象徴的に描かれた大好きなシーンです。

僕はいま、地方で畑を耕して暮らしていますが、そういう生活を選択した理由の一つにこの映画の存在がありました。

脚本を初めて読んだとき、東京で生きていたら山田の生活――目の前に畑があって作物を栽培し、それを誰かと共有したり、隣近所の人とごはんを食べるみたいなことを理解できないと思ったんです。

もちろん、それだけで田舎暮らしを始めたわけではありませんが、間違いなく意識の中にはあったし、実際に田舎暮らしをしてみて、東京では発見できなかったことをたくさん発見しました。

―― 荻上作品の魅力とは?

荻上さんの作品って説明がしづらいんですよね。

なぜかというと、自分の世界の中にそれに対する価値観や認識がないからなんです。

今回もやっぱり自分の認識の"外"にある人たちの話だと感じました。

演じるとなって初めて自分と共通するところを探ったりしながら向き合うことになるんですけど、そういう作業の中で少しずつ認識や世界が広がっていくのが面白いんです。

作品が完成したいまも、言語化できない感覚や、あれってどういう意味だったんだろうという部分がまだまだあります。

それだけ見る人がいろんな角度で感じられる作品だと思うので、そういうところも楽しんでもらえたらいいなあと思いますね。

作物を育てるのも演技もセッション

いま日本では鹿の食害が問題になっていて、南アルプスの食害が最もひどいということで、勉強のために長野に行ってきたんです。

実際、人が入らない山の奥では高山植物などが食べ尽くされて生態系が壊れつつあるということだったのですが、森林生態学的には数百年単位で見ていく必要があって、目の前の現象だけでは判断できないんです。

それでも自分が知らないところで色々なことが動いていることを知ることができ、大きな発見でした。

よく人の立場になりなさい、人の気持ちを考えなさいと言うけれど、それってすごく難しいことだと思うんです。

どうしたって他の人にはなれませんから。

でも、よく観察して知ることで、少しでも寄り添って考えることはできる。

作物を育てていると、日々失敗して少しずつ修正していくしかありません。

つくづく太陽だとか季節だとか......地球とのセッションだなって(笑)。

そういう意味では演技もセッションですし、今回の作品は信頼できる俳優さんばかりで、面白いセッションがたくさんありました。

取材・文/鷲頭紀子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク/勇見勝彦 スタイリスト/五十嵐堂寿

 

松山ケンイチ(まつやま・けんいち)さん

1985年3月5日生まれ、青森県出身。『ロストケア』(2023年/主演)が公開を控えている。また23年放送の大河ドラマ「どうする家康」にも出演が決まっている。

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『川っペりムコリッタ』

監督・脚本・原作:荻上直子(『川っペりムコリッタ』/講談社文庫)
出演:松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり 吉岡秀隆 他
配給:KADOKAWA
9月16日(金)全国ロードショー

山田(松山ケンイチ)は北陸の小さな町の塩辛工場で働き口を見つけ、「ハイツムコ
リッタ」という川っペりの古い安アパートに引っ越してきた。家族も生きがいもなく「ひっそりと暮らしたい」と思っていたが、隣の住人・島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から山田の生活は一変する。ムコリッタ(牟呼栗多)とは仏教の時間の単位の一つ、1/30日=48分を意味している。

この記事は『毎日が発見』2022年9月号に掲載の情報です。
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