いかに生き、死ぬか。本を読む楽しさは、そのヒントと出合えることかもしれません。今回は「生と死」をテーマに読みたい作家を、日本文化研究の第一人者であり、稀代の読書家として知られる松岡正剛さんに選んでいただきました。
母を亡くした幼子に残した愛と生き方
『小さき者へ・生れ出づる悩み』
有島武郎 著 新潮文庫 340円+税
有島武郎(たけお)の『小さき者へ』は、幼くして母を亡くした自分の3人の息子に向けて、手紙形式で書かれた作品です。お前たちは不幸だが、人間は生まれる時も、死ぬ時も一人。孤独だが恐れずに歩めと説く親心は、哀切極まりなく、涙を誘います。有島は、生と死は一つのものということを思索し続けた作家でした。そして、妻の死から7年後、45歳で女性と心中してしまう。彼の作品から生と死を考えてみるのもおすすめです。
生と死と美しさを男女の物語で描き続けた文豪
『雪国』
川端康成 著 角川文庫 362円+税
有島武郎はいかに生きるべきかを作品にしましたが、美しいものは儚(はかな)い[別れや死がある]ということを見事に男女の物語にしたのが川端康成です。『雪国』や『古都』、『美しさと哀しみと』などは、一度は読んでおくべき名作です。ノーベル文学賞受賞記念講演の『美しい日本の私』では、日本の伝統文化と日本の死生観を語り、自殺については懐疑的だった川端ですが、最期は自ら死を選んだ。本当に美しいものと、ともに滅びることが彼の美学だったのかもしれません。
いま、再評価。死の香り漂う詩的な短編
『梶井基次郎全集 全一巻』
梶井基次郎 著 ちくま文庫 880円+税
「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ」と始まる『桜の樹の下には』。友人の死因を探り、月世界へ行ったと考える『Kの昇天』。丸善の棚に黄金色に輝く物を置き、突拍子もない想像をする『檸檬(れもん)』など、梶井基次郎の作品詩的で想像力豊かで、不思議な死の香りが漂っています。重度の肺結核を煩い、わずか20ほどの短編を残して31歳で夭折(ようせつ)した梶井。理系で詩人で、新たな文学を拓(ひら)いた夭折作家としては宮沢賢治と双璧。いま再評価されているので、ぜひ読んでほしい作家です。
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取材・文/丸山佳子