いかに生き、死ぬか。本を読む楽しさは、そのヒントと出合えることかもしれません。今回は「生と死」をテーマに読みたい作家を、日本文化研究の第一人者であり、稀代の読書家として知られる松岡正剛さんに選んでいただきました。
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水俣病患者の声なき声を集めた20世紀を代表する日本文学
『苦海浄土』(くがいじょうど)
石牟礼道子 著 講談社文庫 690円+税
水俣病患者の壮絶な惨苦を告発し、生と死を見つめ続けた石牟礼(いしむれ)道子さんが、2018年2月、90歳で亡くなりました。
パーキンソン病を患いながら口述筆記などで最期まで執筆活動を続けられたそうです。
石牟礼さんの『苦海浄土』が出版されたのは69年。当時は市民運動のリーダーが書いたノンフィクションとして評されていましたが、水俣病患者の声を聞き取った詩のようにも読めるこの作品は、20世紀の日本文学を代表する文学となった。石牟礼さんは、「白状すればこの作品は、誰よりも自分自身に語り聞かせる浄瑠璃のごときもの」と言っていますが、まさしくその通りで、この本を読んでいると、被害者たちの声が幻聴のように響いてくるのです。
2004年まで書き継がれ、三部作になった『苦海浄土』も素晴らしいですが、機会があればぜひお読みいただきたいのが石牟礼さんの詩集です。
特に『はにかみの国』[『はにかみの国 石牟礼道子全詩集』石風社所収]がいい。自分の生や死にはにかむ。そうした恥じらいが伝わってきて初々しい。初々しさとは、生きる力でもあるのです。
これからの時代に必要なのは日本的な仏教観
『日本的霊性 完全版』
鈴木大拙 著 角川ソフィア文庫 960円+税
最後に紹介したいのは、日本人の死生観を考えるための一冊。仏教学者の鈴木大拙(だいせつ)が、太平洋戦争に負けることを確信し、戦後の日本人の心の拠(よ)り所をと考えて書いた『日本的霊性』です。「南無阿弥陀仏」と唱えれば救われるという新しい仏教を生み出したところに、日本的霊性の素晴らしさがあると大拙は説いていますが、全てがコンピュータ化されていくいまの時代こそ、なおさら利他的なものや縁起、「妙好人(みょうこうじん)、簡単にいうなら、「学はないけれども信仰に篤(あつ)人」の存在が大切になってくるのだと思います。アップルコンピュータの創始者、スティーブ・ジョブズも鈴木大拙の愛読者でした。
21世紀は日本的な仏教の時代になる予感がします。ぜひ、読んでみてください。
取材・文/丸山佳子