女方としていま注目を集める歌舞伎俳優、中村梅枝さん。シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』の公開も控える中村さんに、お話をお聞きしました。
演劇的な難しさ、自由さが楽しかったです
琴・三味線・胡弓(こきゅう)の3種の楽器の高い演奏力と、細やかな心理描写の表現力を必要とする難役にして、女方屈指の大役である名作『阿古屋(あこや)』を2018年12月に勤め、大役を受け継ぐ一人として期待されている若手女方、中村梅枝さん。
その梅枝さんが「早寝姫(はやねひめ)」という役を演じた、演出家・野田秀樹による歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』(2017年に歌舞伎座で上演)が、この春、シネマ歌舞伎として全国の映画館で上映されます。この作品が現代劇の演出家との初仕事だったそうです。
「野田さんの演出は動きもせりふもすごく細かく決まっていて、演出がこんなに緻密なんだと思いました。役を作っていくという意味では歌舞伎と一緒なんですが、アプローチの仕方が違います。歌舞伎は形あるものに自分を入れていくんですが、現代劇は形のないものから作っていかないといけない。難しい部分もあれば、自由な部分もあって、楽しかったですね。
僕の役はそんなに動きが多いわけではなかったですが、幸四郎兄さん(※十代目松本幸四郎)、勘九郎兄さん(※六代目中村勘九郎)、七之助兄さん(※二代目中村七之助)はすごく大変だったと思います。その姿をお稽古中からずっと拝見させてもらっていたので、負けていられないなとも思いましたね。
兄さんたちは歌舞伎以外の演劇に慣れていらっしゃるんですが、僕自身は初めてだったので、スキップで登場することには戸惑いがあって。恥ずかしさを取っ払うが大変でした(笑)。それも最初は別のステップだったんですが、僕には難しいのでスキップにしてもらったんですよ(笑)。物語も最初に読んだときはよく分からなかったんです。でも何十回もやっていくうちに、だんだんと意味に気付かされるところもあって、いろいろと考えさせられました。
舞台をご覧いただいたお客さまにも最後にはすごく感動したとおっしゃっていただきました。歌舞伎にも通じる様式的な美しさがあるので、スクリーンだとより迫力があると思いますよ」
女方は誰にでもできるわけではないんです
「歌舞伎の主役は基本的に 立役(※男性の役。または男性の役を演じる役者)です。『阿古屋』以外で女方が主役の舞台はほぼないんです。でも歌舞伎は女方がいないと成り立たないと思っています。そして、僕たち女方がよくならないと歌舞伎の面白みはない。そこが女方をやっていて楽しいところです。体形的な問題もありますし、女方は誰にでもできるわけではないんです。そういう意味でも、いまこうして女方をさせていただけて『阿古屋』までさせていただけているのはありがたいことです。
立役をやりたいと思っていた時期もありましたが、ここ数年は女方だけでいいと思うようになりました。でも、今年の初春歌舞伎公演では立役をしまして。立役は肩がこる(笑)。女方とは疲れるところが違うんです。体質的に僕は食べてないと痩せちゃうタイプなので、基本よく食べます。野菜が苦手なので、お肉が多いです。歌舞伎界は朝からお肉を食べる方も多いですね。お肉を食べていられるので皆さんお元気です」
月イチ歌舞伎
毎月、映画館でシネマ歌舞伎を上映!
シネマ歌舞伎
『野田版 桜の森の満開の下』
坂口安吾作品集より 野田秀樹 作・演出
4月5日(金)~25日(木)
全国の映画館にて公開
出演:中村勘九郎 松本幸四郎 中村七之助 中村梅枝 市川猿弥 片岡亀蔵
坂東彌十郎 中村扇雀 他
上演月:2017(平成29)年8月
上映時間:133分
深い深い桜の森。時は天智(てんち) 天皇が治める時代。ヒダの王家の王の下に、耳男(中村勘九郎)、マナコ(市川猿弥)、オオアマ(松本幸四郎)の3人の匠の名人が集められる。王の娘の夜よ 長姫(ながひめ)(中村七之助)と早寝姫(中村梅枝)を守る仏像の彫刻を競い合わせるためだった。だが、その3人、実は名人ではなく...。
●5月以降のシネマ歌舞伎とスケジュール
『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』
5月17日(金)~23日(木)
大人気漫画『ONE PIECE』を、四代目市川猿之助による「スーパー歌舞伎Ⅱ」で舞台化し、連日劇場が大盛況となった話題作がシネマ歌舞伎に。映像ならではのカットもふんだんに盛り込まれ
ています。
『鷺娘(さぎむすめ)/日高川入相花(ひだかざかいりあいざくら)王』
6月21日(金)~7月4日(木)
坂東玉三郎の代表作の一つ『鷺娘』。美しさと完成度で世界で大絶賛を浴びた伝説の舞台が、サウンドリマスター版でスクリーンによみがえります。併映は『日高川入相花王』。尾上菊之助、市川九團次との共演です。
※各作品の詳細やその他の上映予定は「シネマ歌舞伎」公式ホームページへ。
取材・文/鹿住恭子 撮影/吉原朱美