腰痛、手足のしびれ、不眠がなかなか治らない...その原因、実は「右脳と左脳の働きのバランスが崩れている」のかもしれません。そこで、石井克昇さんの著書『不調が消え去る脳バランス体操 右脳と左脳の働きが一瞬で整う』(KADOKAWA)より、左右の脳機能の働きをチェックし、機能が低下した側に刺激を加える健康法「脳バランス体操」についてご紹介します。
画像診断と症状は必ずしも一致しない
しつこい痛みや不調に悩む人の多くは、たいてい数々の病院や治療院を巡った後、当院にやってきます。
そのときには、診断名もわかっていますし、原因らしきものも判明しています。
困ったことに、ご本人に診断名や原因らしきものが知らされているのに、治療や施術が効果を上げていないのです。
それらの診断名や検査が間違っているとは、私は考えていません。
問診や診察・検査によって、患者さんの病態を正しく突き止められている。
それなのに、なお、症状が取れないことがしばしばあるのです。
慢性化した症状は、「筋・骨格系」と「自律神経系」の2つに分けて考えることができます。
まず、ここでは最新の医学研究の知見にもとづいて、筋・骨格系の慢性痛に焦点を当ててみましょう。
整形外科では、腰痛やひざ痛、股関節痛といった筋・骨格系の症状に対して、主に画像によって診断が行われます。
例えば、腰痛に悩む人の多くは、医師から画像診断を使って説明を受けているでしょう。
腰部椎間板ヘルニアなら、画像を見せられて「ここで椎間板が飛び出しています」などと医師から話をされているはずです。
ヘルニアとは、「本来あるべき体の場所から、飛び出してしまった状態」をいいます。
画像を見せられれば、ヘルニアが神経を圧迫しているのだから、痛くて当たり前なのだと、多くの人が思い込んでしまうでしょう。
また、ひざの画像を見せられて、「軟骨がすり減っていますね」と言われれば、患者さんは「そのとおり」と思ってしまいます。
しかし、ここで強調しておきたいのは、ヘルニアや軟骨のすり減りが事実あるにしても、その部位の変性が痛みの原因とは限らない、という点です。
近年の医学研究によって、こうした画像診断と、痛みやしびれといった症状が必ずしも一致しないことがわかってきています。
それは、整形外科の領域ではすでによく知られている情報と言っていいでしょう。
椎間板が飛び出し、重度のヘルニアがあることが画像で確認できている人の中に、腰にまったく痛みを感じない人が多数いるのです。
同じように、ひざの軟骨がすり減っていても、痛みを感じない人もいます。
一方、椎間板にはまったく異常がないのに、椎間板ヘルニアとまったく同様の症状に悩まされている人もいますし、画像診断ではなんともないのに、ひざの慢性的な痛みに悩まされている人もいるのです。
腰やひざを手術すると、確かに痛みやしびれが消える人はいます。
その一方、術後も痛みやしびれが取れない人もいるのです。
このことは、腰やひざに限らず、多くの筋・骨格系の痛みやしびれに当てはまります。
痛み・しびれに限らず、筋肉のこりやこわばり、可動域の狭さなどについても、当てはまります。
私自身、こうした数々の症例を見てきて、「画像診断では痛みやしびれ(症状)の真の原因はわからない」と考えるようになりました。
では、その症状はいったい、どこからやってくるのでしょうか?
私たちの体には痛みをやわらげるシステムがある
ここでは、最もわかりやすい腰痛を例にしてお話ししましょう。
腰痛のうち、原因がはっきり特定できない腰痛を、「非特異的腰痛」といいます。
非特異的腰痛の代表例は、慢性腰痛やギックリ腰などが挙げられます。
これに対して、原因が特定できる腰痛が「特異的腰痛」。
こちらは、腰部椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などがあります。
ここで注目したいのは、腰痛のうち、非特異的腰痛が全体の85%を占めるというデータが出されている点です。
つまり、腰痛のうち9割近くが、原因がはっきりわかっていないのです。
しかも、原因が特定できる腰痛にしても、例えば腰部椎間板ヘルニアは、画像検査によって腰椎にヘルニアがあることが確認できているだけに過ぎません。
先ほどお話ししたとおり、その画像所見が必ずしも症状と一致しないことがわかってきています。
つまり、原因が特定できるとされている特異的腰痛にしても、痛みとの関連は、極めてあやふやなのです。
では、なにもわかっていないのか、と言うと、そうではありません。
新たに判明してきたこともあります。
腰痛が発生し、なかなか治らない背景には、腰への負担だけではなく、心理社会的要因が深く関与していると考えられるようになっているのです。
腰痛を例に取りましたが、これは多くの慢性痛についてもあてはまります。
心理社会的要因とは、わかりやすく言えば、心理的なストレスです。
心理的なストレスが痛みを引き起こしたり、悪化・持続させたりする危険因子となっているのです。
これは、どういうことでしょうか。
もう少し詳しくお話ししましょう。
私たちの脳には、痛みを抑制するシステムが複数存在しています。
1つめは、下行性疼痛(とうつう)抑制系と呼ばれるシステムです。
体のどこかが壊れたという情報が脳に届くと、それが視床下部の隣にある中心灰白質(かいはくしつ)という部位に伝わります。
すると、ここから、痛み情報が伝わるのを抑制するノルアドレナリンやセロトニンが放出され、痛みを抑えるのです。
スポーツの試合中に選手がケガをしたとき、試合中はほとんど痛みを感じないことがあります。
そうした場面で、このシステムが働いていると考えられます。
2つめが、ドーパミンシステムです。
ドーパミンは、「やる気のホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質です。
脳が痛みを感じると、中脳からドーパミンが分泌されます。
ドーパミンが分泌されると、脳の側坐核(そくざかく)などを刺激し、脳内モルヒネであるエンドルフィンの分泌が促されます。
この脳内モルヒネが鎮痛作用をもたらします。
こうした痛みを抑える複数のシステムが、心理的ストレスがかかることによって、うまく機能しなくなるのです。
6章にわたって、左右の脳機能のバランスを整えて不調を改善する「脳バランス体操」について解説しています!