テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。
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前の記事「ゴシップが好まれる日本はあぶない/鎌田實「だまされない」」はこちら。
最後通牒ゲーム
高橋先生(京都大学大学院医学研究科の高橋英彦精神医学准教授。こちらの記事を参照)が「最後通牒(つうちょう)ゲーム」という心理テストを教えてくれました。
「私が1000円をもらい、鎌田先生との分け前を決めたとします。鎌田先生は私が提案した分配金をもらうか、拒否するかの2択しかありません。たとえば私が『鎌田先生は100円で!』と提案した場合、どうしますか?」
僕は「1円ももらえないより、ましだから、まあいいや」って思う。実はこのテストはセロトニンの働きについて調べるものであり、「100円でもいいや」と思った僕はセロトニンがよく働いている、幸福感が強い人間だと言うのです。ちなみに、セロトニンの働きが悪い人ほど申し出を拒否し、1円ももらわない選択をする傾向があるとのことでした。
セロトニンが働いている人ほど、少々理不尽なことをされても、短気を起こさず「まあいいか」と楽天的に考えられる。セロトニンは気持ちにゆとりを与え、集団で暮らす人々がお互いに気持ちよく生きられるように働いてくれるのです。このセロトニンはどうやって増やせるのでしょうか?
セロトニンでやせて安眠
セロトニンは人体ではつくれない、〈トリプトファン〉という必須アミノ酸から合成されます。トリプトファンが不足するとセロトニンを合成できなくなるため、トリプトファンを豊富に含んでいるバナナ、アボカド、魚類、肉類、豆類などを食べることが基本です。僕もしっかり食べています。
さらに朝、眠っているときに分泌されている〈メラトニン〉という催眠物質は太陽の光を浴びることでセロトニンに変わり、「今日も1日がんばろう!」という活力が出てきます。僕は朝目覚めたら、すぐにカーテンを開いて、太陽の光を浴びます。いっとき睡眠薬を服用した時期もありましたが、いまは一切、薬がいらなくなりました。
軽い運動や、心地よい感動もセロトニンの分泌を促します。ご紹介した「早遅(はやおそ)歩き」や、鎌田式スクワット、ラジオ体操などリズミカルな運動、それに音楽・映画鑑賞など、エンターテインメントに触れることも大切です。僕はとにかく映画をたくさん観ています。僕のブログ「八ヶ岳山麓日記」を見てください。映画評だけでも年50本近い記事を書いています。
セロトニンが不足すると過食気味になるとも言われます。ダイエットを考えている人は、セロトニンが不足しないように気をつけるといいでしょうね。
自分で自分を幸せにしよう
ゴシップネタやスキャンダルが好きだという自覚のある方、もしかしたら、あなたの心は深い傷を負っているのかもしれません。ウソのうわさ話を流して、幸せそうに見える人の足を引っ張る人がいたら、その人も実は心に傷がある可能性があります。
人のうわさ話やスキャンダルで脳内にドーパミンが分泌され、心の傷を癒やす快感を得ているのです。なかにはもっと快感を得たくなる人がいる。だから際限なくゴシップネタやスキャンダルを求める。それはもはや依存症に近い状態です。嫉妬心が大きくなりすぎると、自分の身を滅ぼします。
人は人。
人のことはあまり気にせず、幸せホルモンのセロトニンをほどほどに出しながら、自分で自分を幸せにするほうがいいですね。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
次の記事「「賢い電話」を使いすぎるとバカになる!?/鎌田實「だまされない」」はこちら。
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!