「尿路感染症」セルフチェック。閉経前後が人生2回目の発症ピーク期なので要注意

尿道口から菌が侵入し、体内で繁殖することで起こる尿路感染症。特に膀胱内が身近ですが、重症化すると敗血症や膿腎症を引き起こし、死に至ることも...。今回は、日本大学 医学部附属板橋病院 院長の高橋 悟(たかはし・さとる)先生に「尿路感染症」についてお聞きしました。

主な要因
女性ホルモンの分泌量の低下と免疫力の低下
運動不足などによる骨盤内の血行障害
糖尿病や尿路結石などの基礎疾患

主な対処法
抗菌薬を投与する
基礎疾患を治療する
生活習慣を改善する

尿が排出されるまで

「尿路感染症」セルフチェック。閉経前後が人生2回目の発症ピーク期なので要注意 2205_P082_01.jpg

尿は左右2つの腎臓で作られ、腎盂に集められる。尿路(腎臓→腎盂→尿管→膀胱→尿道)を経て、体の外に排出される。


尿路感染症とは尿路(上図参照)で起こる感染症の総称で、尿道口から菌が侵入し、体内で繁殖することで起こります。

通常は菌が繁殖する前に尿として体外に排出されますが、上記のような要因によって、繁殖しやすくなります。

繁殖する場所によって「膀胱炎」や「腎盂腎炎」など病名が異なり、下記のような症状が見られます。

膀胱内で菌が繁殖する膀胱炎は、女性にとって最も身近な尿路感染症です。

特に閉経前後は女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少し、粘膜のバリア機能が働かなくなり、菌が侵入しやすくなります。

また、外出を控える、長時間同じ姿勢でいるなどの昨今の生活様式も、代謝や免疫力の低下を招いたり、骨盤内の血行を悪くしたりして、発症リスクを高めます。

膀胱炎を放置していると膀胱で繁殖した菌が腎臓にまで達して「腎盂腎炎」に進展することもあります。

さらに重症化すると「敗血症(※1)」や 「膿腎症(※2)」を引き起こし、死に至ることもあります。

市販薬に頼ることなく、早期受診・早期治療をすることが大切です。

※1 細菌が血流に乗って腎臓から他の臓器へ移動し、全身の感染症に陥る病気。
※2 腎臓自体が膿だらけになってしまう病気。


症状をチェックして早期発見を!

下部尿路感染症(膀胱炎)

□ トイレに行く回数が急に増えた         
□ 尿が白っぽく濁ったり、血が混じったりする
炎症を起こして尿の中に白血球が出てくると濁ってくる。出血を伴うと少し赤くなる。膀胱がんの場合も血尿の症状があるので要注意。
□ 下腹部(へそからにぎりこぶし1個分下、膀胱がある場所)に違和感がある
□ 排尿時や排尿の終わりに違和感(痛みやヒリヒリする感じ)がある
□ 排尿後にまだ尿が出終わらないで残っているような感覚(残尿感)がある

上部尿路感染症(腎盂腎炎)

□ 38度以上の高熱がある         
□ 腰や背中をトントンと叩いたときに強い痛みがある             
□ 吐き気や嘔吐がある
□ 体重が減少する
□ 食欲がない
□ 尿に濁りがある

《間質性膀胱炎にご注意!》

治りが悪い場合は、「間質性膀胱炎」の恐れがある。昼夜問わず頻尿になる、おしっこに行きたい感じが強い、残尿感がある、急な尿意に襲われる(尿意切迫感)、膀胱の不快感、膀胱の部位が痛いなどの症状がある。抗菌薬は効かない。診断に至らない医師もいるので、患者側の知識が大切。

予防や再発防止のためにできること

水分を十分に(食事以外に1日およそ1L~1. 5L程度)摂取する
すみ着いた細菌を尿で流し出す。

尿はがまんせずに頻繁に出す
尿をがまんして膀胱にたくさんの尿がたまっていると、細菌が増えやすくなる。

排尿・排便後は前から後ろに拭く
尿道に細菌が入りやすくならないように。

ストレスや疲労をためない
免疫力の低下を防ぐ。

適度な全身運動をする
骨盤内の血行を良くする。

クランベリージュースを1日1杯飲む
膀胱粘膜への細菌の付着を阻害する成分と、尿を酸性にして細菌の増殖を抑える成分が含まれる。

減量する
肥満は腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱を招き、菌が逆行しやすくなる。

骨盤底筋を鍛える
骨盤臓器脱による尿漏れなどの排尿障害を防ぐ。

【骨盤底筋訓練の方法】

「尿路感染症」セルフチェック。閉経前後が人生2回目の発症ピーク期なので要注意 2205_P083_01.jpg

(1)背筋を伸ばしていすに座る

(2)骨盤底筋を引き締める(膣を引き上げるイメージ)

(3)骨盤底筋を緩める※
※1日60回を目標に!


膀胱炎を侮るなかれ別の病気があることも

診断は症状と尿検査による尿中の白血球の有無、背中を叩いたときの痛みの有無などから行われます。

再発性膀胱炎や薬剤耐性(※3)が疑われる場合は、尿の培養検査でどのような細菌に感染しているか調べます。

症状が重い場合は血液検査や画像検査を行うこともあります。

主な治療法は、抗菌薬による薬物治療です。

最も頻度の高い大腸菌を殺菌する薬が選ばれます。

基本的には飲み薬ですが、腎盂腎炎では、点滴が行われます。

治療期間は、膀胱炎では約3日間、腎盂腎炎では約1~2週間です。

早い段階で改善しても、渡された薬は必ず飲み切りましょう。

なかなか治癒しない場合は、耐性菌による感染症のことがあります。

培養検査の結果をもとに、より適切な抗菌薬に変更します。

抗菌薬が効かない場合は、「間質性膀胱炎」(上記参照)を疑います。

膀胱炎と似たような症状がありますが、尿には異常がありません。

診断に至らない医師もいるので、患者側の知識が診断の助けになります。

再発を繰り返す場合は、糖尿病、尿路結石(※4)、膀胱がんのほか、腰部脊柱管狭窄症や骨盤臓器脱(※5)による排尿障害など基礎疾患が隠れている場合があります。

根本的な治療を行うことが大切です。

上の「予防や再発防止のためにできること」もぜひ実践してみてください。

※3 いろいろな薬に抵抗性を獲得し、一般的な抗菌薬は効かなくなること。
※4 骨粗鬆症の人は、尿路結石のリスクが高い。
※5 子宮、膀胱、直腸といった骨盤内の臓器が外に出てくる女性特有の病気。

「尿路感染症」セルフチェック。閉経前後が人生2回目の発症ピーク期なので要注意 fujisan.jpg

取材・文/古谷玲子 イラスト/片岡圭子

 

<教えてくれた人>

日本大学 医学部附属板橋病院 院長 
高橋 悟(たかはし・さとる)先生

1985年群馬大学医学部卒業。日本泌尿器科学会専門医・指導医。専門は泌尿器悪性腫瘍、前立腺がん。著書に『頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方』(毎日が発見)など。

この記事は『毎日が発見』2022年5月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP