整形外科領域などの医療機器を手がけるスミス・アンド・ネフューは、人工膝関節手術で使うロボット支援手術システム「CORI(コリ)サージカルシステム」の販売を2021年10月に開始。高難度の手術にも対応できると期待を集めています。そこで今回は、東京大学医学部附属病院 整形外科・人工関節センターのセンター長・乾 洋(いぬい・ひろし)先生に「人工膝関節のロボット支援手術」についてお聞きしました。
変形性膝関節症患者は2500万人
変形性膝関節症は、関節のクッションである軟骨が加齢や筋肉量の低下ですり減って足に痛みが生じたり、骨が変形したりする病気です。
(1)関節の内側が狭くなり、凹凸ができてくる
(2)軟骨の下の骨が狭くなってくる
(3)骨にとげができてくる
[治療は?]
保存療法
軽症の場合は痛み止めの内服薬や外用薬、膝の関節注射を行います。運動療法や膝装具を使用することも。
手術療法
関節鏡(内視鏡)手術、骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります。
東京大学大学院医学系研究科などの調査によると、変形性膝関節症を患う人は推計約2500万人に上ります。
治療は、まずは保存療法を試し、症状が改善しない場合は手術を考えます。
手術の中で圧倒的に多いのが、損傷した膝の軟骨などを削り、金属などのインプラントと置き換える人工膝関節置換術です。
「人工膝関節手術を行うと、痛みなく歩けるようになり、足の変形も改善します。半面、患者の満足度は決して高くありません。その原因の一つが、大腿骨と脛骨をつなぐ膝の前十字靭帯の切除により、膝の安定性が低下したり、膝関節の機能が悪くなることが大きいと考えられます」と、乾洋先生。
とはいえ、前十字靭帯温存には、熟練の術者でも非常に高い技術が必要とされ、課題となっていました。
「CORIサージカルシステム」は、赤外線カメラが骨を削るドリルや人工関節の位置を計測し、モニターに3次元で骨の切除範囲などを示すもの。
人工関節を入れた際の膝の動きも術中にシミュレーションでき、人工関節を挿入する際の微妙なバランスの調整もできるように。
「この手術支援ロボットを使うことで、従来困難だった前十字靭帯の温存が可能となります。術中の迷いもなくなり、手術時間も短縮されます」と、乾先生。
他にも人工膝関節の手術支援ロボットは普及しつつあり、術後の生活の質の向上が期待できそうです。
人工膝関節置換術とは?
[従来の方法]
術者(医師)が手の感覚で膝の動きを確認し、膝関節の変形状況を確認。
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専用の機械を使い、痛みの原因になっている骨を切除。
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削ったところに人工の関節をはめ込みます。術後、痛みはほぼ消失し足もまっすぐになりますが、足の違和感を訴える人が多いのが課題。
[ロボット支援の手術法]
コンピュータで膝の動きを確認。
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ロボット制御により、痛みの原因となる骨を切除。
複雑な形状の骨切除に対応
膝関節全体を人工関節に置き換える全置換術では、これまで難しかった前十字靭帯の温存にも対応できるように。
より正確で安全な手術
医師はモニターで切除範囲を確認しながら、ドリルで骨を切除。切除範囲外を削ろうとするとドリルの動きが止まる仕組みに。
ロボット支援手術システム「CORI〈Core of Real Intelligence〉」
取材・文/オフィス・エム(寳田真由美) イラスト/坂木浩子