尿トラブルは薬で治療できます。最新の治療法を紹介/頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方

頻尿や尿もれは、基本的には命に関わる病気ではありませんが、普段の生活が送りにくくなるので、非常につらいものです。家族であっても話しにくく、気持ちがふさいでしまう人もいるでしょう。そこで長年、泌尿器のトラブルを治療してきた医師・高橋悟先生の著書『全国から患者が集まる泌尿器科医の 頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方』(毎日が発見)より、自分でできる「頻尿」「尿失禁」「過活動膀胱」の改善方法をご紹介します。

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※画像はイメージです。

セルフケアで症状が改善されないときは薬物療法を

生活習慣の改善や行動療法で頻尿・尿もれが改善しない、生活にかなり影響があるという場合は、原因や症状に応じた薬物療法を検討します。

一般的に、切迫性尿失禁には抗コリン薬やβ3作動薬、膀胱炎には抗生剤、前立腺肥大にはα1遮断薬やPDE -5阻害薬が使われます。

腹圧性尿失禁は、残念ながら効果のある薬がありません。

切迫性尿失禁は過活動膀胱の症状のひとつです。

膀胱がゆるんで尿道が締まると尿はたまり、排尿するときは逆に膀胱が収縮して尿道が広がりますが、この連携がうまくいかなくなることで起こります。

改善するためには尿を十分ためられるようにする必要があり、尿を出す役割を担う副交感神経の働きを抑えなくてはいけません。

抗コリン薬は、膀胱の副交感神経に働きかけ、過剰に収縮するのを抑える薬です。

副交感神経の働きを弱めることで、膀胱は尿を十分にためられるようになります。

非常に効果があるため、過活動膀胱の薬物療法の第一選択肢になっていて、さまざまな商品名で処方されています。

服用を開始してから1週間ほどで効果があらわれますが、口の渇きや便秘、尿閉(尿が出なくなること)などの副作用が出る人もいます。

飲み薬だけでなく、貼り薬もあり、飲み薬に比べて吸収速度がゆるやかなため、副作用が比較的少ないとされています。

切迫性尿失禁に対するもうひとつの薬が、β3作動薬です。

過活動膀胱で尿意切迫感をともなう頻尿や切迫性尿失禁が起こる理由は、膀胱と尿道の連携不足の他に、膀胱が尿を押し出す力が、尿道括約筋によって尿道を締める力を上回るから。

これらの症状を改善するには、膀胱を広げ、かつ必要なとき以外は尿道をゆるませないことです。

そうなると、尿をためやすくなります。

膀胱は交感神経がオンになるとゆるみます。

そこで、β3作動薬で交感神経に働きかけ、膀胱の筋肉をゆるませて尿道を縮ませると、尿の出口が閉じられます。

こちらも服用を開始してから1週間ほどで効果があらわれ、抗コリン薬に比べて副作用が少ないという特徴があります。

排尿の勢いがない、頻尿で困っているという男性の場合、原因の多くが前立腺肥大症と考えられます。

前立腺は男性特有の臓器で、前立腺が肥大すると尿道を圧迫して狭めてしまうので、尿が出にくくなったり過活動膀胱が起こったりします。

前立腺肥大症がある人の尿トラブルに対しては、まず前立腺肥大症の治療が優先されます。

代表的な治療薬は、前立腺や膀胱、尿道の出口部分の筋肉の緊張をやわらげて尿を出やすくするα1遮断薬、前立腺や尿道の血流をよくし、筋肉を弛緩させて尿の通り道を広げる効果があるPDE -5阻害薬などです。

これらの薬物治療で前立腺肥大症が改善すると、尿トラブルも解消することがほとんどです。

しかし過活動膀胱による頻尿が残る場合は、抗コリン薬やβ3作動薬が使われることがあります。

どの薬でも、きちんと用法・用量を守ること。

症状がよくなっても、自己判断で勝手にやめないようにしましょう。


頻尿・尿もれの主な薬物療法

《切迫性尿失禁》

抗コリン薬:膀胱の過剰な収縮を抑える
β3作動薬:膀胱の筋肉をゆるませて尿をためる

《前立腺肥大》

α1遮断薬:前立腺や尿道の筋肉をゆるめ、排尿を改善する
PDE-5阻害薬:前立腺や尿道の筋肉をゆるめ、血流を改善し、症状をやわらげる

排尿と蓄尿

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薬には副作用があることも。

担当医と相談して対策を

過活動膀胱の治療によく用いられる抗コリン薬は、膀胱だけでなく胃腸にも作用し、働きが悪くなることがあります。

例えば、唾液の分泌が悪くなり口が渇く、腸の動きが悪くなって便秘になる、といった副作用です。

花粉症の薬で口が渇くことがありますが、それと同じしくみです。

β3作動薬も同様で、抗コリン薬より症例は少ないものの副作用が報告されています。

口が渇くときは、アメや小さな氷を口に含むと、唾液が分泌しやすくなります。

また、耳下腺や舌下腺と呼ばれる唾液の出やすいポイントをマッサージする、うがいをして口の中を潤すのも効果的です。

口が渇いたからと、ちょこちょこ飲み物を飲んでいると、頻尿や尿もれをかえって悪化させてしまうので気をつけましょう。

便秘に関しては、キノコ類、海藻類など食物繊維が豊富な食材を多くとるなどの工夫が必要です。

担当医と相談して、便秘薬を処方してもらってもいいでしょう。

シニアの場合は、便秘だからと安易に下剤を使うと排便をコントロールできずに便失禁を起こすことがあるため、自己判断は禁物です。

薬物療法は、一生つきあう必要のあるものもあれば、状態が改善すればやめられるものもあります。

頻尿や尿もれの薬は、患者さんのライフスタイルに合わせて薬の飲み方を変えていけるものが多いので、薬の効果が出てきたら担当医と相談してみましょう。

毎日飲むほどではないかもと思えば、外出するときだけにする、頻尿が気になる季節だけにするなども可能です。

自信がついてきたら、薬をやめられる人もいます。


副作用への対処法

口の渇き
・アメや氷を口に含み、唾液を出やすくする
・水で口をすすぎ、口内を潤す
・唾液腺(耳下腺、舌下腺)マッサージ

便秘
・食物繊維を多く含む食品をたくさん食べる
・医師の判断のもと、便秘薬を使用する
・適度な運動をする


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知識を身につけ、「骨盤底筋トレーニング」「膀胱トレーニング」「足上げ寝」などのセルフケアを実践し、尿トラブルを防ぎましょう。

 

高橋 悟(たかはし・さとる)
1961年生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授、日本大学医学部附属板橋病院病院長。群馬大学医学部卒業。虎の門病院、東京大学医学部泌尿器科助教授などを経て現職。2003年には、天皇陛下(現上皇さま)が入院された際の担当医師団も務める。悪性腫瘍から排尿障害、尿失禁まで、泌尿器に関わるあらゆる疾患を研究、診察している。

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全国から患者が集まる泌尿器科医の 頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方

高橋 悟/発行:毎日が発見 発売:KADOKAWA)

長年、排尿障害や尿失禁を治療してきた名医が、治し方をやさしく解説します。尿のトラブルに悩み全国から訪れる患者に薦めているセルフケアをカラー写真で分かりやすく紹介。「頻尿」「尿失禁」「過活動膀胱」「排尿後尿滴下」などの症状の原因と治療法についても詳しく解説しています。

※この記事は『全国から患者が集まる泌尿器科医の 頻尿・尿もれ・夜間頻尿の治し方』(高橋悟/毎日が発見) からの抜粋です。
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