「1000円で足りますか?」このお客さん、計算できないのかな?/認知症の人が見ている世界

買い物のさいに過去の経験から解決策を探り、紙幣を多用するようになります

認知症が進むと、計算が苦手になる「失計算」と呼ばれる症状が現れます。

失計算が起こると、買い物のさいにお金をどのように支払えばいいかがわからなくなり、レジでまごつくことが多くなります。

マンガのように、買い物のときに「お会計は320円になります」といわれれば、ふつう、私たちは「100円玉を3枚、10円玉を2枚出せばいい」と判断できます。

しかし、失計算が起こると数字の読み方が苦手になり、数字の並びを見たときに、1の位、10の位、100の位が何を意味するのかがわからなかったり、計算のくり上がりが理解しにくくなったりして、お金をどう支払えばいいかわからなくなってしまうのです。

ちなみに、同じ計算でも足し算よりも引き算のほうが難しい傾向があるため、認知症のごく初期から買い物ができてもお釣りがいくらかがわからなくなるケースも少なくありません。

こうしたとき、認知症の人は過去の経験から解決策を考えます。

「紙幣を出せばお金が足りる」という経験を誰しも持っているため、千円札や五千円札、一万円札といった紙幣で買い物をするようになります。

すると、硬貨のお釣りを受け取る機会が増え、必然的に財布が小銭でいっぱいになります。

財布が小銭でパンパンに膨れたり、家のあちこちに小銭が置いてあったりしたら、失計算に悩んでいるサインです。

また、ご本人が買い物好きなら、計算が苦手になっても、できるだけご自身で買い物をしてもらったほうがいいと思います。

好きな物を買うことで意欲の低下が防げるし、外出の機会も増えるので心身の衰えを食い止めることにもつながるからです。

なお、計算が苦手になると、心配してご本人に「3+2はわかる?」などと簡単な計算問題を出す人がいますが、これは本人の自尊心を傷つけるので、控えてください。

計算できなければご本人が衰えを直視することになりますし、仮にできてもバカにされたように感じてしまいます。

対応のポイント

●買い物で紙幣を多用したり、財布が小銭でパンパンになっていたりしたら、失計算のサイン。

●本人が買い物をしたがっているなら、意欲を維持するためにも続けてもらうといい。

●自尊心が傷つかないよう、簡単な計算を出題するのは控えよう。

「1000円で足りますか?」このお客さん、計算できないのかな?/認知症の人が見ている世界 177-006-043.jpg

【次回】「アレどこだっけ? ほらアレだよアレ・・・」お義父さん、アレじゃわからない!/認知症の人が見ている世界

「1000円で足りますか?」このお客さん、計算できないのかな?/認知症の人が見ている世界 177-c.jpg

認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています

 

川畑智(かわばた・さとし)
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組む。

 

遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
聖路加国際大学病院臨床教授、元国立長寿医療研究センター長。認知症や医療介護制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深い。

 

浅田アーサー(あさだ・あーさー)
マンガ家。

shoei.jpg

『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』

(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)

認知症って、何もかもがわからなくなるわけではないの? 認知症の人が見ている世界を知り、「なぜ?」を解決できると、介護はもっとラクに。認知症ケアの第一人者がひも解いた、マンガでわかる介護メソッドです。

※この記事は『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)からの抜粋です。
PAGE TOP