ひざが痛くて歩きづらい、痛くなりそうだから外出したくない――年齢を重ねて感じるそんなひざの悩み。理学療法士の土屋元明さんは「ひざの痛みの多くは、ひざ関節や軟骨の変形ではなく、ひざから足首までのねじれが原因になっている可能性がある。痛みをセルフケアすることはできる」といいます。そこで、土屋さんの著書『ひざのねじれをとれば、ひざ痛は治る 1日5分から始める超簡単ひざトレーニング』(方丈社)から、ひざ痛の原因や自宅で簡単にできるセルフケア方法をご紹介。実践して、自分で元気に歩く力を手に入れませんか?
ひざを守る呼吸をマスターしよう
ひざ痛と浅い呼吸の関係
ひざに限らず、体の各所にある関節に慢性的な痛みが生じている人のケアに携わっていると、多くの人が「呼吸が浅くなっている」と感じます。
ぜひ痛みと呼吸の関係を理解し、臨機応変に深い呼吸ができるように練習していきましょう。
"深い呼吸"というと、「腹式呼吸の話だろう」と見当をつけた人がいるかもしれません。
健康づくりによい呼吸法として腹式呼吸が知られていますから、そう考えるのも当然ですが、ここは腹式だけでなく「胸式呼吸」も大切、という話になります。
なぜ深い呼吸として「胸式呼吸」が大切か、その理由を説明する前に、そもそもなぜ深い呼吸が大切なのでしょうか?
体のどこかに慢性的な痛みがあると体がこわばり、浅い呼吸になるのは、痛いと体を丸め、呼吸をこらえるから。
無意識に体を動かさないよう、かばっているのです。
ひざ痛が続いている場合も同じです。
がまんできないほどの痛みではなくても、そのひざの痛みに対して体は自然と過剰に動かないように筋肉をこわばらせ、息をこらえています。
一方、痛みなどがなく、深い呼吸ができると体はゆるみます。
みなさん大事な場面で緊張したときなど、無意識に深呼吸をしませんか?
深呼吸をすれば緊張がほどけると経験的に知っているから、精神的に緊張したとき、同時にこわばっている体の緊張をゆるめて、精神的にもリラックスしようとするのです。
ですから痛みがあるときは意識的に深い呼吸をして過度な体のこわばりをゆるめてあげることが大切です。
腹式も胸式も意識的にたっぷり吸い、ゆっくり長く吐くことに気をつければ深呼吸になります。
ではなぜあえて「胸式呼吸」をクローズアップするのか、それにはいくつか理由があります。
お腹を使って行う腹式呼吸はどちらかといえば副交感神経を優位にさせ、全身のリラックスを促す呼吸で、普段の生活や、「これからのんびりしよう」という場合に適しています。
たとえばウォーキングや運動を行った後、クールダウンのストレッチを行うときなどには適しているといえるでしょう。
一方、胸を使って行う胸式呼吸を行うと、脊椎に連なる交感神経を胸郭の動きが刺激するので全身に適度な緊張を促すことになります。
つまり、これから何かしようというタイミングで深呼吸をするなら胸式が適しているのです。
運動前など、自分が出せるベストパフォーマンスを発揮するには胸郭を最大に動かして深い呼吸をするのが理想的です。
ところが、腹式呼吸に気をつけている人でも胸式呼吸は意識していないことが多く、年齢ひざ世代ともなると加齢の影響も重なり、胸郭が動かなくなっている人が多いのです。
胸郭を動かすことができないと「本当の意味で深い呼吸ができていない」といえます。
胸郭(骨)を動かすといわれても、ぴんとこない人もいるかもしれないので、もうすこし説明すると、胸郭とは肺を保護する骨の集まりで、その形状からよく「鳥かご」にたとえられます。
みなさんの胸にあるこの鳥かごは胸骨と、左右で24個の肋骨と、12個の胸椎で形成されていて、骨と骨をつなぐ関節はなんと136個もあるという報告があります。
正確な数はさておき、100個超の関節を動かせなければ胸式で深呼吸はできないわけです。
腹式呼吸は鳥かごをそれほど動かさなくてもできる呼吸法ですから、胸郭の柔軟性にあまり関係がありません。
しかし胸式呼吸は胸郭の柔軟性と大きくかかわります。
人のすべての関節の数は260個とも300個ともいわれますが、そのうちの100個超の柔軟性を、胸郭を使った深呼吸によって高めることができるというと、その価値を感じていただけるでしょうか。
胸式呼吸を練習して胸郭の柔軟性をとり戻すことが、全身の柔軟性に通じ、ひざの柔軟性にもいい影響を及ぼします。
とくに肩こりや腰痛の予防・改善に。
それは鳥かごの動きが硬い場合、首か腰で動きを補う場合が多いからです。
肩や腰のこりや痛みの原因が胸にあるとは!
驚かれるかもしれませんが、体はつながっているので、そういうことは珍しくはありません。
私自身も「胸腹式呼吸」を心がけ、鳥かごが自在に動くようになり、全身の柔軟性が格段に高まりました。
たとえば、ひざを伸ばしたままでもおでこがひざのお皿にくっつきます。
この機会に「腹式・胸式両方大切」という視点をぜひもっていただきたいと思います。
普段は腹式呼吸を行っていていいのですが、呼吸は腹式呼吸と胸式呼吸の両方が大切であり、身体パフォーマンスを発揮したいとき、コンディションを整えるために深い呼吸をするなら胸式呼吸も重要だと覚えておきましょう。
そして、ひざにかかる負担を減らすために普段からときどき胸腹式とりまぜて深呼吸をして、体のこわばりをゆるめ、柔軟性を高めましょう。
柔軟性を高めるほど、ひざにかかる衝撃を逃がしたり、やわらげたりできます。
深呼吸の質を高める方法を紹介しますので、実際にやってみましょう。
いま、レベル1~4でいうとどの呼吸をしていますか?
目標はレベル4です。
レベル4になると「ひざの痛みの悪化をある程度、防ぐことが可能な柔軟性がある」と私は考えています。
ねじれのチェック&セルフケアとあわせて深呼吸のレベルアップをはかると、痛みを解消する正の連鎖が生じます!
深呼吸の質を高める方法
レベル1はどなたも難なくクリアすると思いますが、レベル2はできない人がいると思います。
できなかった人は体がとてもこわばっているので、レベル1(腹式呼吸)をしながらその他のひざのセルフケアを行い、ときどきレベル2にトライしましょう。
レベル3の呼吸ができると「ここぞ」という場面で緊張を和らげ、自己ベストパフォーマンスが可能になります。
本来は誰でもできる動きですが、トレーナー志望の学生に教えてもできない人がいる一方、デイサービスでレクチャーした100歳のグランドマダムにできる人がいて、年齢にかかわらず、できない人には何らかの不調や慢性疼痛がある印象です。
練習を続けると可能になります。
最終目標はレベル4です。
息を吸うとき(または吐くとき)にお腹にこめた力が抜けてしまう場合は、抜けないように練習してみましょう。
1日でできるようにはなりませんが継続すれば必ず改善し、効果を実感できるようになります。
レベル1~4を通してやると「柔軟性がない」という気づきがあるのではないでしょうか。
この気づきはとっても大切で、ひざ痛解消につながる大事な1歩前進です!
●呼吸法
仰向けに寝て、手を胸と腹にのせる
・レベル1~4、すべてこの体勢で、手で胸と腹の動きを感じながら行う
・息を吸うときは鼻から、吐くときは鼻、口どちらでも
レベル1(腹式呼吸)
胸は一切動かさないように注意して腹式呼吸をする
レベル2(胸式呼吸)
お腹を一切動かさないように注意して胸だけで呼吸をする胸式呼吸をする
レベル3(胸腹式呼吸)
深い呼吸をしながら胸とお腹を同時にふくらませ、へこませる
レベル4(腹圧を高めたまま胸式呼吸)
腹筋に力を入れたまま深い胸式呼吸を行う。息を吸うときも吐くときも腹圧を高めたままで
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