女性は、50代を過ぎて更年期以降から体が新しいモードに入る――。そう指摘するのは、女性家庭医の常喜眞理先生。加齢や老化に伴う変化を知り、対策をしっかり立てて、素敵に年を重ねるにはどうすれば...? そこで常喜先生の著書『お医者さんがやっている「加齢ゲーム」で若返る!』(さくら舎)より、「健康寿命を楽しく伸ばす方法」を抜粋してご紹介します。
必ずやってくる死への心構え
数多くの死に立ち会ってきて
自分の終末期について考えると、なんだか暗い気持ちになってしまいますよね。
私もできれば「加齢ゲームはハッピーにジ・エンド」というお話にしたかったのですが、多くの方の病気や死と向き合ってきた医者としては、「必ずやってくる死」への心構えをお伝えする務めがあると思い、あえて自分を奮い立たせて書いています。
ある患者さんは末期の膵臓がんでした。
しばらくは抗がん剤の化学療法をがんばっていましたが、あまりにつらかったのか、亡くなる1カ前に「もう抗がん剤の治療はやめる」と宣言しました。
生きている間に、家族と旅行に行きたい。
動けなくなる前にいろいろなことをしておきたい、という思いもあったのでしょう。
そして、自分なりにできることをして旅立たれました。
しかし彼の奥さまにとっては、治療をやめることは家族への裏切りのように感じたそうです。
なぜなら、もっと治療をがんばって長く生きていてほしかったからです。
その思いを引きずり、ご主人亡きあともしばらく苦しんでいました。
「私たち家族のために、なぜもっと治療をがんばってくれなかったのか」という悔しい気持ちが長く続いたといいます。
そういう遺族の方たちのお話を聞くと、やはり元気なうちに自分の考えを家族に話しておき、同意を求めておくことが大切だとつくづく感じます。
元気なうちでなければ、家族も冷静に聞くことができませんからね。
たとえば、脳腫瘍になると、病状によっては生存期間が短くなるだけでなく、脳の組織が壊れて人格が豹変してしまう場合があります。
認知症もそうですが、自分の本当の意思を伝えられなくなるんです。
また白血病だと診断されると、猶予なく治療が始まり院外に出られなくなります。
身辺の整理をするどころではありません。
「まさか自分が......」と思っていても、人の身には、いつ何が起こるかわかりません。
私はある時期、医院の待合室に「リビング・ウイルを書きませんか?」という張り紙をしていたことがあります。
リビング・ウイルとは、「自分の命が末期であれば、こうしてほしい」と宣言し、生前の意思を書き記しておくことです(日本尊厳死協会のホームページなど参照)。
それを見た患者さんのお一人が、「リビング・ウイルを書いておきたい」と興味をもたれたので、簡単なシートのコピーを差し上げました。
その方は大学病院の人間ドック健診と合わせて、定期的にうちの医院で健康チェックをしていましたが、健診結果は毎回異常がなく、寝込んだことや薬を飲んだことがないほど健康そのもの。
しかし昨年、近所で買い物をした帰り道に突然、大動脈瘤破裂で亡くなってしまいました。
こういうこともあるんです。
でも驚いたのはそのあと。
奥さまによると、それまで大切にしていた手紙や写真などがすべて処分され、奥さま宛てのノートが2冊だけ残されていたそうです。
そこには銀行口座をはじめ、自分が万一のときを考えて家族が困らないようにいろいろ記されてあったとか。
「立つ鳥、跡を濁さず」といいますが、本当にあっぱれな旅立ち方だなと思いました。
こういうケースはまれですが、「今日は元気でも、明日はわからない」ということです。
コロナ感染が世界に拡がり、先ほどまでお話しできていたのに急激に具合が悪くなり、そのまま逝ってしまったとか、発症後あっという間に家族と引き離され、不条理なお別れとなったなどといったケースも耳にするようになりました。
人はいつなんどき、命を落とすかわからないのですから、元気なうちにやるべきことはきっちりと、という思いを新たにしたのは言うまでもありません。
ゲーム感覚で気楽に健康寿命を延ばす「実践的な老いの攻略法」が4章構成でわかりやすく解説されています