「脂質異常症」をご存じでしょうか? 国内に200万人以上の患者がいるといわれ、自覚症状がないため、放置していると脳や心臓の重篤な疾患につながる、ちょっと厄介な病気なんです。そこで、東海大学医学部付属東京病院 健康管理学准教授の岸本憲明先生に「脂質異常症の基礎知識」について教えていただきました。
血栓の最大の元凶。放置するのは危険
健康診断で、悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)の値が高く、「脂質異常症」と診断されたことはありませんか?
国内の脂質異常症の患者数は約220万人と推計されています。
でも、異常値が出ても自覚症状に乏しいため、受診せずに放っておく人も少なくありません。
「悪玉コレステロールは、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。高血圧や高血糖を気にする人は多いのですが、脂質異常症は放置されやすいのです」と岸本憲明先生は話します。
高血圧や高血糖は、血管にダメージを与えます。
脂質異常症も同じです。
心筋梗塞や脳梗塞は、血管の壁にプラークというコブができ、それが破れることで血栓が生じます。
そのコブを作る最大原因となるのが、悪玉コレステロールや中性脂肪なのです。
「中性脂肪が増えると、悪玉コレステロールは小型(sd-LDLコレステロール)化し、血管内皮に入りやすくなります。中性脂肪に含まれる超悪玉(VLDL)コレステロールも、血管内皮に入りやすく、プラークを後押しします。中性脂肪とLDLコレステロールが合わさるとよくありません」と岸本先生。
悪玉コレステロールが高いだけでも動脈硬化は進みますが、中性脂肪が加わると、血管がどんどん傷むのです。
だからこそ、悪玉コレステロールも中性脂肪も放置してはいけないのです。
一方、善玉(HDL)コレステロールは、血管で余ったコレステロールを肝臓に戻す働きがあります。
そのため、善玉コレステロールの数値が低過ぎると、悪玉コレステロールがたまりやすくなります。
2017年に新たに診断基準に加わったnon-HDLコレステロールは、善玉コレステロールを除いた悪い働きをするコレステロールの指標です。
「脂質異常症による動脈硬化は、血管のあちらこちらで生じても自覚症状は全くといっていいほどありません。しかし、自覚症状がなくても、ある日突然、脳や心臓の重篤な病気につながることがあります。脂質異常症を放置するのは、とても危険なのです」と岸本先生は警鐘を鳴らします。
脂質異常症とは?
血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が必要以上に増える、あるいは、善玉(HDL)コレステロールが減ること。
診断基準は
悪玉(LDL)コレステロール 140mg/dL以上
善玉(HDL)コレステロール 40mg/dL未満
中性脂肪(トリグリセライド) 150mg/dL以上
高non-HDL-C血症 170mg/dL以上
通常の状態
脂質異常症の状態
悪玉コレステロールや中性脂肪が血液中に増え、善玉コレステロールが減った状態が脂質異常症。動脈硬化を進行させます。
脂質異常が進み動脈硬化になると、血管に害を及ぼすことに
●傷ついて弱くなった血管が切れてしまったら
[脳出血]
脳の深い部分に血液を送る細い動脈が傷つき、弱くなっているところに高い血圧がかかって切れてしまう
[大動脈瘤]
おなかや胸の大動脈が膨れて破れ、大出血を起こす
●血栓が血流に乗って流れていき、細い血管で詰まってしまったら
⇒それが冠動脈だったら
[狭心症]
一時的に詰まって、心臓を動かす筋肉に酸素や栄養が行き届かなくなる。痛みや圧迫感が生じる。
[心筋梗塞]
詰まった状態が続いて、心臓を動かす筋肉に酸素や栄養が十分に行き届かず、筋肉が壊死する。
⇒それが脳の血管だったら
[一過性脳虚血発作]
一時的に詰まって、脳に酸素や栄養が行き届かない
[脳梗塞]
詰まった状態が続いて、脳に酸素や栄養が十分に行き届かず、脳の細胞が壊死する。
⇒それが足の血管だったら
[閉塞性動脈硬化症]
足の先などへ酸素や栄養が十分に行き届かなくなる。足のしびれ、痛みなどが生じる。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史