最重要なのは「失明しないこと」。視野が欠ける病気「緑内障」の治療法

緑内障と白内障をご存じでしょうか? いずれも年を重ねた大人女性は注意しておきたい目の病気です。そこで、東京都江戸川区の二本松眼科病院副院長の平松 類(ひらまつ・るい)先生に、その予防法や最新の治療方法についてお聞きしました。今回は、「緑内障の症状と手術の選択肢」をご紹介します。

近視の人は高リスク。視野が欠ける病気

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「房水」の量が不安定になり眼球が視神経を圧迫

緑内障は、眼圧により視神経が障害され、視野が欠ける病気です。

目の中では毛様体から房水が分泌され、同量が隅角から排出されることで眼圧を一定に保ちますが、分泌量が多かったり、フィルターの働きを持つ隅角の線維柱帯(せんいちゅうたい)が詰まって排水が悪くなったりすると、眼圧が上がって眼球が硬くなり、視神経にダメージを与えます。

強度の近視の人も眼軸(眼球の奥行き)が長くなり視神経が圧迫されやすくなります。

高・低血圧や糖尿病で血流が悪く、視神経が弱っている人も発症しやすくなります。

最重要なのは「失明しないこと」。視野が欠ける病気「緑内障」の治療法 2010_58.jpg見え方の例。見えない部分が徐々に広がり、視野が狭くなって、視力が低下します。

正しく目薬をさして失明しないことが最重要

「現在の医療では、欠けた視野や失われた視神経を治す、つまり元に戻すことはできません。治療の目的は『治す』ことではなく、『これ以上の視野の欠損を防ぎ、失明させない』ことです」と、平松先生。

その基本が目薬での眼圧コントロールです。

さし方によって効果が大きく変わり、手術をせずに済むこともあるそうです。

さした後に目頭を押さえるのは、鼻やのどに目薬が流れるのを防ぐため。

まばたきは、目薬が目からあふれて効果が弱まるので厳禁です。

複数の目薬をさすのが困難な場合、混ぜたものを処方してくれる場合もあるので、医師に相談を。

《目薬の効果》
さし方次第で手術を回避できる

① 手を洗う

最重要なのは「失明しないこと」。視野が欠ける病気「緑内障」の治療法 2010_P058_02.jpg② 人さし指で下まぶたを軽く引っ張る

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③ 容器が目に触れないように目薬を1滴落とす

最重要なのは「失明しないこと」。視野が欠ける病気「緑内障」の治療法 2010_P058_04.jpg④ ゆっくり軽く目を閉じ、目頭と鼻筋の間を30秒~1分軽く押さえる

最重要なのは「失明しないこと」。視野が欠ける病気「緑内障」の治療法 2010_P058_05.jpg目薬で改善されない場合にどの方法も保険適用可

緑内障の治療は目薬で眼圧を下げ、進行を抑えるのが基本ですが、進行が早く、思うような効果が得られない場合は、手術により房水の排出を改善し、眼圧を下げます。

「現在、主な方法には以下の三つがあります。症状により選びますが、どれも100%眼圧が下がるわけではなく、術後5年の効果がある人は7割。3割の人は5年以内に効果が切れます」(平松先生) 

最新方法として期待されているのが「MIGS(ミグス―低侵襲緑内障手術)」です。

トラベクロトミーの進化形「トラベクトーム」、房水の通り道に小さいチューブを入れる「iStent(アイステント)」などが含まれ、施術できる病院はまだ少ないですが、体への負担が軽いのが特徴です。

目を切開しないレーザー治療も最新治療の一つ。

房水の流れ道にレーザーを当てて排水を良くするもので、日帰りで受けられますが、炎症を起こしたりする場合もあるので、事前に医師とよく相談することが大切です。

《手術の選択肢》
方法は主に三つ。最新手術の選択肢も

1.[最も一般的] トラベクレクトミー
目に小さい穴を開け、眼球の中から結膜(白目の表面)の下へと房水の流れを作ります。合わせて、虹彩(瞳の色の外側の部分)にも切れ目を入れ、房水の排水力を上げます。眼圧を低下させる効果は最も高いが、感染症のリスクも高め。

2.[安全性は最も高い] トラベクロトミー
詰まってしまった排水口の網を取るように、目の中の房水の流れが悪い部分を切り取って穴を開け、自然に流れるようにします。白目をいじらないので安全性は高いですが、ほかの二つに比べると、眼圧を下げる効果は低くなります。

3.[全て交換&大がかり] バルベルト
現在の医療の最終手段の一つ。眼球の外側の「眼筋」の間に取り付けるプレートと長いシリコンチューブから成る器具を目の中に挿入し、チューブを通して房水を眼球の外に直接排出します。施術できる病院が限られているのが難点。

房水がたまりにくい姿勢と血流を良くする習慣を

「眼球への圧迫が加わりやすいうつ伏せ寝はやめましょう。横向き寝も下になった側の眼圧が上がりやすくなります」と、平松先生。

また、首の血流が悪いと眼圧上昇を招きます。

新聞やスマートフォンを上からのぞき込むようなうつ向き姿勢も長時間続けないように注意を。

良い習慣としては、ウォーキングなどの有酸素運動、温かいタオルで目を温める温罨法(おんあんぽう)など。

視神経のダメージを抑える抗酸化作用と目の血流を促す作用を持つカシスを摂るのもおすすめです。

温罨法のやり方

①タオルをお湯や電子レンジで約40℃に温める 
②目を閉じた上に押しつけないようにのせる 
③タオルが冷めたら温かいものと交換し、5分間を目安に行う

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取材・文/岡田知子(BLOOM) イラスト/ノグチユミコ

 

<教えてくれた人>
平松 類(ひらまつ・るい)先生
東京都江戸川区の二本松眼科病院副院長。テレビ、ラジオなどの出演多数。YouTube「眼科 平松類チャンネル」で目の情報も紹介している。近著に『失明しない習慣』(小学館)、『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる!ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)などがある。

この記事は『毎日が発見』2020年10月号に掲載の情報です。

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