心を蝕む「うつ」。それはストレスだけでなく「"質的な栄養失調"が引き起こすこともある」と栄養学に精通する精神科医・藤川徳美さんは言います。そんな藤川さんの著書『うつ消しごはん』(方丈社)から、実際に行ったサプリメントを用いる栄養療法「メガビタミン療法」で回復した症例エピソードを抜粋してご紹介します。
※症例の血液検査が示す数値などについて......症例の中には、受診時の血液検査の数値が頻繁に登場します。栄養療法を実践するにあたり、タンパク質や鉄の充実度を測る指標にするためです。よく出てくる検査項目についてはエピソードの下で解説しています。
【症例】ADHD傾向の4歳の男の子、3カ月で落ち着いてきた
4歳の男児です。
母親は妊娠中から貧血を指摘されており、BUNは一桁と重度のタンパク不足が窺えました。
平成29年9月から、高タンパク/低糖質食+プロテイン+鉄+メガビタミンで劇的に元気になった症例です。
男児は100cm、14.2kg。
多動で落ち着きがありません。
言葉の遅れも感じられ、会話が成立しにくい状態でした。
喘息の治療を受けていました。
ピアノを習っているとのことですが、体幹が不安定な状態なので、よい姿勢で弾くことができませんでした。
血液検査では、フェリチン64でした。
お母さんが私の症例集を見て、サプリメントを選択し、子どもに与えることにしました。
チュアブル鉄27mg×3~4。
高タンパク/低糖質食を開始し、キレート鉄27mg、ビタミンB50、ビタミンC、オメガ3を開始しました。
平成30年3月、当院を受診。
プロテインを勧めることにしました。
インクレミンシロップ(鉄剤)を処方しました。
ビタミンA10000IU、ビタミンB50×1/2、ナイアシン250mg、ビタミンC2000mg、ビタミンD5000IU。
ビタミンE400IU、オメガ3、その他、亜鉛とマグネシウムも摂取しました。
6月には、BUN13.9、フェリチン127になっていました。
インクレミンは飲めていない状態で、プロテインも嫌がりあまり飲めていないものの、高タンパク/低糖質食はきちんとこなせていました。
その結果、会話が普通にできるようになりました。
落ち着きが出てきたのです。
お母さんが喜んでいた変化としては、じっと立って歌えるようになったこと、皆と一緒の作業ができるようになったこと、喘息症状が出なくなったこと、そして、自ら友人を誘い、遊ぶようになったことです。
ピアノの先生からは、急に体幹がしっかりしてきたといわれたそうです。
食事療法やメガビタミン療法は、3~6カ月、指示量が摂取できれば、ほぼ全員回復しています。
半年でIQも20程度上昇する場合が多いです。
年単位で継続すればさらに改善するはずです。
ポイントは、神経発達に必要な栄養素を十分量与えつづけること。
そうすれば、勉強も運動も得意になると思います。
※症例の血液検査が示す数値などについて
「一般的な基準値」というのは、健康な人の多くの検査データをもとにして、統計学的に求められた数値のことで、95%の人が基準値の範囲に該当しているといわれています。なお、BUN(尿素窒素)とMCV(赤血球恒数)、およびフェリチンについては、当院独自の基準で判断しておりますので、「当院の目標値」として記しておきます。
・BUN(尿素窒素)......血液中の尿素に含まれる窒素成分のことです。高い場合は腎機能障害、基準値未満はタンパク質摂取不足です(重症の肝機能障害のときにも低くなります)。一般的な基準値8~20(mg/dl)、当院での目標値15~20(mg/dl)。
・RBC(赤血球数)......赤血球の数で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:430~570(万個/μl)女性:380~500(万個/μl)。
・HGB(ヘモグロビン)......血液中の鉄の量で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:13・0~16・6(g/dl)女性:11・4~14・6(g/dl)。
・MCV(平均赤血球容積)......赤血球の大きさで、基準値未満では鉄欠乏性貧血が疑われます(鉄欠乏性貧血=小球性貧血)。逆に大きすぎる場合(大球性貧血)には、ビタミンB12不足、葉酸不足が疑われます。一般的な基準値80~100(fl)、当院での目標値95~98(fl)。
・フェリチン......鉄分を貯蔵しているタンパク質の量です。一般的な基準値 男性:20~220(ng/ml)女性:10~85(ng/ml)、当院での目標値100(ng/ml)。
・メガビタミン療法......ビタミンやミネラル、プロテインなどのサプリメントを活用した栄養療法の考え方。
・ATP......アデノシン三リン酸。生体内のエネルギーを貯蔵したり、供給したりする、生きるための「エネルギー通貨」とも呼ばれる。「ATPセット」は、ATPをつくるためのサプリメントの組み合わせ。
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薬に頼らない栄養療法メソッドを全5章に渡って解説。著者が行う「メガビタミン療法」のサプリレシピも収録