心を蝕む「うつ」。それはストレスだけでなく「"質的な栄養失調"が引き起こすこともある」と栄養学に精通する精神科医・藤川徳美さんは言います。そんな藤川さんの著書『うつ消しごはん』(方丈社)から、実際に行ったサプリメントを用いる栄養療法「メガビタミン治療」で回復した症例エピソードを抜粋してご紹介します。
【症例】「職場の人間関係で体調が悪い」と訴える人は、実は栄養状態が悪い
40歳代後半の女性です。
半年前から職場の人間関係の悪化に悩みはじめました。
そのせいだと思いますが、体調まで悪くなってしまいました。
仕事先の人に会うのが嫌になったり、だるくて起きあがれなくなったりして、仕事もたびたび休むようになりました。
休んでも体調は回復せず、家事もあまりやる気が起きず、こなせていないということです。
このように、「職場の人間関係」「職場のストレス」を訴える患者さんはとても多いのです。
典型的な症例だといえます。
当院への初診は平成30年の2月でした。
血液検査の結果は、肝機能をみるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)13、同じく肝機能のALT8、γGTP11、ALP(アルカリホスファターゼ)31、BUN11・3、フェリチン6という結果でした。
これによって、典型的な「最重度の鉄・タンパク不足」であることが明らかになりました。
精神科診断的にはうつ病となります。
このように栄養が悪いと、柔軟な思考ができなくなります。
どうしても極端な考え方に偏りがちです。
また、些細なことにも敏感に反応して、落ち込んでしまうことも多い。
一度落ち込んでしまうと、いつまでたっても立ち直れないのです。
要は、気持ちの切り替えができなくなってしまいます。
ここで鉄とタンパク質をしっかり摂り、栄養状態がよくなると、神経伝達物質が適切に分泌されるようになり、柔軟な考え方ができるようになります。
些細なことは軽くやり過ごすことができ、ちょっとやそっとでは動じなくなります。
何かあって一度は落ち込んだとしても、落ち込んでも立ち直りが早くなります。
気持ちが切り替えられるようになるのです。
精神の不調に、職場環境の悪さが大きく影響しているのは確かです。
しかし、その環境改善がすぐに望めない場合、まず自分がそれに動じなくなり、冷静に対応できるようになることが大事です。
栄養状態がよくなれば、対人関係などのストレスに強くなります。
そうすると、余計なことは気にならなくなったり、堂々と自分の意見がいえたりします。
ストレスに強くなるためには、タンパク質と鉄、これにビタミンB50+C+Eを追加すればベストです。
※症例の血液検査が示す数値について
症例の中には、受診時の血液検査の数値が頻繁に登場します。
栄養療法を実践するにあたり、タンパク質や鉄の充実度を測る指標にするためです。
よく出てくる検査項目について解説いたします。
「一般的な基準値」というのは、健康な人の多くの検査データをもとにして、統計学的に求められた数値のことで、95%の人が基準値の範囲に該当しているといわれています。
なお、BUN(尿素窒素)とMCV(赤血球恒数)、およびフェリチンについては、当院独自の基準で判断しておりますので、「当院の目標値」として記しておきます。
・BUN(尿素窒素)......血液中の尿素に含まれる窒素成分のことです。高い場合は腎機能障害、基準値未満はタンパク質摂取不足です(重症の肝機能障害のときにも低くなります)。一般的な基準値8~20(mg/dl)、当院での目標値15~20(mg/dl)。
・RBC(赤血球数)......赤血球の数で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:430~570(万個/µl)女性:380~500(万個/µl)。
・HGB(ヘモグロビン)......血液中の鉄の量で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:13・0~16・6(g/dl)女性:11・4~14・6(g/dl)。
・MCV(平均赤血球容積)......赤血球の大きさで、基準値未満では鉄欠乏性貧血が疑われます(鉄欠乏性貧血=小球性貧血)。逆に大きすぎる場合(大球性貧血)には、ビタミンB12不足、葉酸不足が疑われます。一般的な基準値80~100(fl)、当院での目標値95~98(fl)。
・フェリチン......鉄分を貯蔵しているタンパク質の量です。一般的な基準値 男性:20~220(ng/ml)女性:10~85(ng/ml)、当院での目標値100(ng/ml)。
※メガビタミン療法
ビタミンやミネラル、プロテインなどのサプリメントを活用した栄養療法の考え方。
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薬に頼らない栄養療法メソッドを全5章に渡って解説。著者が行う「メガビタミン療法」のサプリレシピも収録