心を蝕む「うつ」。それはストレスだけでなく「"質的な栄養失調"が引き起こすこともある」と栄養学に精通する精神科医・藤川徳美さんは言います。そんな藤川さんの著書『うつ消しごはん』(方丈社)から、食事指導やサプリメントを用いた栄養療法で、心の病などから回復した症例の記録を抜粋してご紹介します。
【症例】「高タンパク/低糖質食+鉄」でうつ病は完治する
40代後半の女性です。
平成29年2月に大好きだったお祖母さんが亡くなり、その2カ月後に娘さんが就職し、家を出て一人暮らしをはじめました。
そのころから、寂しさのためか、ふさぎ込む日がつづきました。
夜は何度も中途覚醒し、よく眠れません。
涙が出て止まらないこともたびたびありました。
食欲はそれなりにありましたが、糖質の摂取量は多かったようです。
平成29年4月に当院を受診されました。
うつ病と診断しました。
血液検査の結果は、BUN10・3、フェリチン14と、やはり鉄・タンパク不足でした(※血液検査の数値については以下をご覧ください)。
初診の際に、セロトニンを増やすジェイゾロフト(抗うつ剤)25mg+ドグマチール(抗うつ剤)50mg+メイラックス(抗不安)0・5mg+フェルム(鉄剤)を処方し、高タンパク/低糖質食を指導しました。
翌5月、かなり元気になり、夜も眠れるようになったといいます。
お菓子やジュースは控え、これまで毎日は食べていなかった卵、肉を食べるようになりました。
少し落ち着いてきたので、メイラックスを中止しました。
7月の受診の際は、本人はもうすっかり元気になったといいます。
血液検査の結果は、BUN17・7、フェリチン29と順調にアップしていました。
この時点でドグマチールを中止しました。
そして10月、すっかり元気になり、薬を飲み忘れるようになったそうです。
ジェイゾロフトは隔日服用にして、しばらくしたら中止して様子を見るよう指示しました。
薬の量も減ってきたので、このタイミングでメガビタミン(※ビタミンやミネラル、プロテインなどのサプリメントを活用した栄養療法)を提案し、B50+C1000+E400を開始しました。
翌年の平成30年1月、ビタミンを飲むようになって、さらに元気になってきたといいます。
肌の調子がよくなったことも喜んでいました。
ジェイゾロフトは中止していましたが、まったく問題はなかったので、処方はフェルム(鉄剤)のみとなりました。
血液検査の結果はBUN11・6、フェリチン59と、フェリチン値がしっかり上がっていました。
このように、女性のうつ病は鉄・タンパク不足が原因であったことがよくわかります。
高タンパク/低糖質食+鉄で、半年で薬は必要なくなりました。
薬を飲み忘れるようになったら薬は終了です。
元気になってきたところで、タンパク質の食事が少しゆるんできてしまいましたが、フェリチンは上昇していたので、その段階でメガビタミンを開始したことで、また一段と元気になっていかれました。
※症例の血液検査が示す数値
・BUN(尿素窒素)......血液中の尿素に含まれる窒素成分のことです。高い場合は腎機能障害、基準値未満はタンパク質摂取不足です(重症の肝機能障害のときにも低くなります)。一般的な基準値8~20(mg/dl)、当院での目標値15~20(mg/dl)。
・RBC(赤血球数)......赤血球の数で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:430~570(万個/µl)女性:380~500(万個/µl)。
・HGB(ヘモグロビン)......血液中の鉄の量で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:13・0~16・6(g/dl)女性:11・4~14・6(g/dl)。
・MCV(平均赤血球容積)......赤血球の大きさで、基準値未満では鉄欠乏性貧血が疑われます(鉄欠乏性貧血=小球性貧血)。逆に大きすぎる場合(大球性貧血)には、ビタミンB12不足、葉酸不足が疑われます。一般的な基準値80~100(fl)、当院での目標値95~98(fl)。
・フェリチン......鉄分を貯蔵しているタンパク質の量です。一般的な基準値 男性:20~220(ng/ml)女性:10~85(ng/ml)、当院での目標値100(ng/ml)。
栄養療法を実践するにあたり、タンパク質や鉄の充実度を測る指標。「一般的な基準値」は、統計学的に求められた数値で、95%の人が該当しているといわれている。BUN(尿素窒素)とMCV(赤血球恒数)、およびフェリチンについては、著者のクリニック独自の基準で判断しているため、「当院の目標値」として記してある。
※メガビタミン療法
ビタミンやミネラル、プロテインなどのサプリメントを活用した栄養療法の考え方。
栄養で完治させた精神科医のエピソード「うつ消しごはん」記事リストを見る
薬に頼らない栄養療法メソッドを全5章に渡って解説。著者が行う「メガビタミン療法」のサプリレシピも収録