2018年にがんで亡くなった女優・樹木希林さん。その治療にあたった放射線治療医・植松稔さんは、著書『世界初 からだに優しい 高精度がん治療』(方丈社)の中で樹木さんの長女・内田也哉子さんと対談し、約10年に渡った治療期間を振り返っています。今回は収録された対談の一部と、植松医師が考える「がん」について連載形式でお届けします。
なぜ、これほどまでに「がん」が増えてしまったのか?
私が医学部の6年生になった年、がんが日本人の死因のトップになりました。
以降その状況が40年近く続いています。
この間ずっと、がん治療医として仕事をしてきましたが、がんの患者さんは増え続けており、昔は本当に稀だった20代30代といった、若年層の患者さんもめずらしくなくなってきました。
その原因はもちろんひとつではなく、様々な原因が組み合わさった結果であることは間違いありませんが、最も重要なこと、決して忘れてはいけないことは「今日までに自分の体内に取り入れてきたものが材料となって、明日からの自分の身体が作られていく」という事実です。
人間の身体は、良質で必要なものだけを体内に取り入れ、有害で不必要なものはすべて体外に排泄できるほど上等ではありません。
取り入れてはいけないものも、残念ながら明日からの身体の一部になっていきます。
これは、食物や飲料など、自ら意識して摂取しているものに限らず、受動喫煙や大気汚染、さらにエアコンなどから排出されるカビや細菌も含めて、屋内外で日々呼吸している空気も含まれます。
高度経済成長期に、「光化学スモッグ」をはじめとする大気汚染物質が広範囲にばらまかれ、工場からは様々な廃棄物が河川に垂れ流されました。
また、大量の食物生産を安価に行うために農薬や化学飼料の使用が一般化し、抗生物質やホルモン剤で汚染された食品の流通も進みました。
一時期は生物がまったく住めないほどに汚れてしまった河川は、現在は魚が戻る程度には改善してきていますが、一度発がん物質で汚染された土や水や空気が、完全に浄化されているとはとても思えません。
資本主義経済の宿命ともいえる大量生産、大量消費によって生み出され続けている大量の廃棄物は、すでに地球のキャパシティを超えて、生態系にも大きな影響を与えていますが、それがしっかりと改善されていく気配も見えません。
最近よく取り上げられる、遺伝子組み換えやゲノム編集された食品についてもわからないことだらけです。
よくわからないものを、価格が低いという理由だけで流通させてしまおうという動きには、本当に恐ろしいものを感じます。
さらにわが国では、2011年に福島の原発事故で大量の放射性物質がばらまかれてしまいました。
これを処理してコントロールできる兆しは、まったく見えていません。
すでに子供の甲状腺腫瘍が驚くほど発生していますが、本当の健康被害がわかるのはもっと時間が経ってからです。
個人レベルで対応できることとしては、できるだけ汚染されていない食べ物や飲み物を摂るように心がけたり、できるだけ汚い空気を吸わないで済む環境下で暮らすことなどでしょうか。
産業革命以降の科学技術の進歩は、人間の世界をとても便利にしました。
しかし、その一方で地球の破壊が進み、人間を含めた地球上で暮らす全ての生物の首を、確実に絞めつつあることは間違いありません。
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内田也哉子さんとの対談に始まり、ピンポイント照射が求められる理由、現代のがん治療のことが全7章からわかります。故・筑紫哲也さんの家族との対談も収録