肝細胞に中性脂肪がたまる脂肪肝。でも、お酒を飲まない人は無縁だと思っていませんか? 実は、誤った食生活を続けるとお酒をあまり飲まなくても脂肪肝になる危険性があるんです。今回は栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原 毅に脂肪肝の基礎知識やセルフチェック方法ついて伺いました。
誤った食習慣を続けると脂肪肝になる危険性が高い
お酒はあまり飲まないのに、健診のγガンマーGTPなど肝機能検査数値に異常が見られる人がいます。
肝機能の異常に加え、たくさんの食事量を取っていないのに、中性脂肪や悪玉(LDL)コレステロール値も高い。
「暴飲暴食をしていないのに異常値が出るのは体質かしら?」と思う人もいるでしょう。
実はシニア世代に、飲酒とは無関係な「非アルコール性脂肪肝」の人が増えているのです。
「脂肪肝は、肝細胞に中性脂肪がたまった状態です。果物や甘い飲み物、麺類など炭水化物の摂り過ぎが原因のことが多く、誤った食習慣を続けているうちに脂肪肝になるのです」と栗原毅先生は指摘します。
果物はビタミン類を多く含むため、美容や健康のために毎食ごとに食べる習慣がある人は多いようです。
しかし、果物に含まれる果糖は、単糖類といって小腸から吸収されて直接肝臓へ運ばれるため、中性脂肪になりやすいのです。
朝食にジャムを塗ったパンを食べ、デザートにいちごというメニューは、ジャムに含まれる砂糖、パンに含まれる多糖類(単糖がたくさんつながっている糖類)、いちごの単糖類で、肝臓に中性脂肪をどんどん送り込むような事態を招きます。
脂肪肝を放置すると、高血圧や糖尿病などにもつながるので注意が必要です。
「脂肪肝」とは?
肝細胞に中性脂肪がたまった状態のこと。
「脂肪肝」と診断されるのは?
食事などで過剰に摂取されたエネルギーが中性脂肪として蓄積され、「脂肪滴(袋状の小器官)」が肝細胞全体の20%以上に沈着した状態が見られた場合。
脂肪肝のセルフチェック
チェックが3つ以上ついた人は、脂肪肝の疑いがあります。内科で生活習慣の指導を受けるなど、診察を受けましょう。
□ フルーツが好きで、朝食やデザートなどによく食べる
□ ご飯、パンなどの主食をしっかり食べる
□ 大勢で食事をするときに、ほかの人よりも食べ終わるのが早い
□ カロリーばかりを気にしながら食事をしている
□ お酒はあまり飲まない(非アルコール性脂肪肝の場合)
□ 歩いて出かけるのが面倒になることがある
□ 定期的に運動をする習慣がない
□ 疲れやすく、体がだるいことがしばしばある
□ ここ数年間で体重が5kg以上増えた
□ 歯周病の治療をしている
中性脂肪には3つのタイプがある
肝臓、すい臓などの臓器や筋肉に直接つく脂肪。「第3の脂肪」とも呼ばれる。外見からは分からず、やせていてもついている場合がある。筋肉につくと血糖値を上げる原因にも。
内臓の周囲や、小腸を包む腸間膜につく脂肪。指でつまむことはできない。男性や閉経後の女性につきやすく、増え過ぎるとおなかが出てくることがある。
皮膚のすぐ下につく脂肪で、指でつまむことができる。食べ過ぎや運動不足などによってつく。女性の場合は下腹部、太もも、お尻など下半身につきやすい。
お酒を飲まない人も注意が必要です!
「私がかつて患者さんを追跡調査した研究では、非アルコール性脂肪肝の人は、高血圧、高血糖、高脂血症、心筋梗塞や狭心症の発症リスクが高くなっていました。メタボリックシンドロームの源流に非アルコール性脂肪肝があるのです」と栗原先生は警鐘を鳴らします。
脂肪肝か否かは、血液検査に加えて腹部超音波検査で分かります。
肝機能検査の数値でALTが正常域であっても、17以上の場合は脂肪肝の疑いが高くなります。
晩酌が欠かせないという人でASTの値が17を超えているときには、アルコール性脂肪肝になっている可能性があります。
いずれにしても改善することが大切です。
「食事内容を見直すと同時に、たまった中性脂肪を燃焼するために太ももの筋肉を鍛えることが重要になります。脂肪肝の人は筋肉に脂肪がたまった〝霜降り筋肉〟の人が多いからです」と栗原先生はアドバイスします。
肝機能を表す3つの数値とは?
●γ-GTP
肝臓で生成される消化液である胆汁に含まれる酵素です。たんぱく質の分解と合成が主な役割です。アルコールの取り過ぎで血液中に放出されて数値が上がりますが、糖質の取り過ぎ、ストレスによっても上がります。アルコール性肝障害の目安になります。
理想値:男性 50 IU/ℓ以下 女性 30 IU/ℓ以下
●AST(GOT)
肝臓や筋肉などに含まれている酵素で、アミノ酸を作るときに使われます。肝臓だけでなく筋肉などほかの細胞が破壊されても、ASTが血液中に放出されて数値が上がります。ALTとの比較で肝機能の状態を推察します。ALTより高ければアルコールの取り過ぎ、低ければ糖質の取り過ぎが疑われます。
・理想値16 IU/ℓ以下
・一般的な基準値10~30 IU/ℓ
・要注意 17~30 IU/ℓ
・脂肪肝 31 IU/ℓ以上
●ALT(GPT)
肝臓に多く含まれる酵素で、アミノ酸を作るときに使われます。肝臓の細胞が破壊されると細胞内のALTが血液中に放出されるため、数値が高いと肝機能の働きが悪いことを示します。糖質の取り過ぎで肝細胞に異常が発生すると、最初に増えていきます。脂肪肝が進行し肝硬変になると、数値は低くなります。
・理想値 16 IU/ℓ以下
・一般的な基準値10~30 IU/ℓ
・要注意 17~30 IU/ℓ
・脂肪肝 31 IU/ℓ以上
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史