「歯の状態」が全身の健康状態を左右する? そんな歯の重要性を説くのが、歯科医師のほりうちけいすけさん。そこで、著書『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ワニブックス)から、体の健康維持につながる「歯を大事にするための知恵」を連載形式でお届けします。
普通に食べるためには最低18~20本の歯が必要
あなたは何歳でしょうか?
どれくらいの歯があるでしょうか?
食べることに不自由していないでしょうか?
標準では人の歯は親知らずを除けば28本、含むと32本あります。
人によって感じ方は異なるでしょうが、たいていの食べ物をおいしく食べるためには最低18本の歯が必要と言われています。
上のグラフは、一人あたり年代別平均歯数を、1993年と2016年で比較したものです。
18本の歯が残っている年齢を見てみますと、1993年で60歳くらい、2016年で80歳弱くらいですね。
この23年間で、たいていの物が食べられる年齢が20歳近く延びたこと自体はそれなりに評価できると思います。
しかし、女性87歳、男性81歳という平均寿命から考えると、まだまだこの年齢を伸ばす必要があります。
単純ですが、このグラフから男性の平均寿命(81歳)における残存歯数は16本、女性(87歳)においては10本です。
歯の数が18本を下回ると、噛み切ることに弊害が出てきます。
こうなると、残っている歯に負担がかかってくるのがお分かりいただけるでしょう。
残っている歯が、健康であればまだ救われるのですが、たいてい残っている歯もそこそこ悪くなっているか、疲弊してしまっていることが多いため、ここらあたりから、歯の喪失が一気に加速してしまいます。
したがって、歯の数は年齢によって徐々に減るのではなく、ある一点を超えたら急速に減ってしまいます。
10本を下回ると食べられる物にかなり制限が出てきます。
このときあたりから多くの人は、《何も意識することなく、普通に食べることができる》
という当たり前だと思っていた幸せが、当たり前でなかったことに気づき、すぐにこの現実を受け入れられず、「こんなことなら、もっと早くから大事にしとけば良かった」と後悔することになっているようです。
一般的に、ある程度歯の本数が減ってしまうと、部分入れ歯(局部義歯)を使うことになるのですが、やはりあくまでも偽物の歯です。
自分の歯ほど使い勝手の良いものではありません。
このあたりは、義足や義手と同じです。
使いこなすのに、慣れや練習が必要になってきます。
やっと慣れてきた頃には、顎骨や歯肉の形態が変化してきて合わなくなったり、隙間がでてきたりしますので、定期的に調整するか、調整しきれない場合には作り替えないといけなくなります。
また、部分入れ歯を固定するために、残っている自分の歯を固定源としますので、これら固定源の歯にも負荷がかかってしまい、疲弊を助長することになってしまいます。
このように部分入れ歯を使うことは、噛むのを助ける反面、入れ歯を固定する歯にかなりの負荷を強いてしまい、この結果、歯の喪失に拍車をかけることになってしまいます。
決して歯科医療が悪いと言っているわけではなく、現在の歯科医療は「すべてにおいて満足のいく方法はなく、何かを取れば、何かが犠牲になる方法しか存在しない」のです。
適切な表現ではないかもしれませんが、平均寿命が70~80歳の時代なら歯で苦労する前に寿命が尽きるところなのですが、これからの長寿時代では、生命の寿命より歯の寿命が短くなり、歯で苦労する高齢者が増えてくることが予測されます。
下のグラフは、20本の歯が残っている人を年代別にみたものです。
1993年では、70歳で20本の歯が残っている人は30%弱でしたが、23年後の2016年では70%近くに達しており、ポイント数としては2倍以上に飛躍しています。
80歳を超えると、この比率はほぼ5倍となり、歯を残す意識が徐々に浸透しつつあることが分かります。
下のグラフは、80歳で20本の歯が残っている人の割合の年次推移です。
年々増えてきて80歳の半分以上の方が、20本の歯を残すことができています。
人生100歳時代の到来と言われていますが、80歳から、さらに20年です。
100歳でたいていのものが食べられる本数(18本)を残すことを考えると、再生能力がない歯のことですから、逆算すると、80歳で余力をもって25本くらいは残っている必要があります。
さらに逆算すると60歳で失った歯はせいぜい1~2本程度でなければなりません。
ここから、さらにさらに逆算すると、40歳あたりでは、ほぼすべて健全であることが望まれます。
と言うことは、40歳になってから慌てても遅いのです。
だからと言って40歳や60歳で悲観する必要はありません。
それからの予防努力次第で悪化するスピードを抑えることは可能なのですから。
そういう意味では、歯が生え始めたときから予防意識・実践するのが理想なのですが、あくまで理想であり、現状では不可能なことでしょう。
人間は痛い目・つらい目を経験しないと自分のこととして真剣になれない生き物ですから。
まだ、1~2回経験して真剣になれる人は立派だと思います。
あなたも、可能な限りは残したいと思いませんか?
ひとつでも人生の後悔の種を減らしておくことに越したことはありません。
できるだけ早期から適切で継続的な口腔衛生習慣を身につけることが、将来のまさかの芽を摘んでおくことになるのです。