いつの時代も怖い病気の代表に挙げられる「がん」。たとえ自分や家族が患ってしまったとしても、心の準備と備えがあれば、少しは気が楽になるかもしれません。そこで、1000件を超えるがん手術に携わった専門医・佐藤典宏さんの著書『手術件数1000超 専門医が教える がんが治る人 治らない人』(あさ出版)から、がんに対抗するために知っておくべき「5つの力」について、連載形式でお届けします。
ガンが治る人 治療のゴールを医師とつねに共有できている/ガンが治らない人 治療のゴールを医師とずれている
ガンの治療を受けるうえで大事なことは、治療のゴール(目的)をはっきりさせることです。
そして、それに向かって患者さんと主治医がともに努力することです。
ときどき、お互いのコミュニケーション不足から、主治医の考えている治療のゴールと、患者さんの期待する治療のゴールが食い違っていることがあります。
たとえば、患者さんは「ガンが完全に治ること」を期待しているのに、主治医は「数ヶ月間の延命」を想定していることがあります。
このような場合、少しずつ話がかみ合わなくなったり、主治医に対する不信感が芽生えたり、あるいは治療自体がうまくいかなくなったりすることもあります。
ですから、治療を開始するにあたり、まず主治医と治療のゴールについてよく話し合う必要があります。
ゴールは途中で変わっていくこともある
ガン治療のゴールは、大きく根治・延命・緩和の3つに分類されます。
ガン治療のゴールは、ガンのステージや患者さんの年齢、体力などを総合的に考えて判断され、患者さんの価値観、生き方や社会背景なども関係します。
一般的には、可能であればまず根治から始まり、延命、そして緩和という順番になります。
最近では、ガン治療の初期の段階から緩和医療を導入したほうがいい、という意見もあります。
また、生活の質を重視し、積極的なガン治療はいっさい受けない(無治療)というゴールもあります。
おそらく多くの患者さんにとって、第一のゴールは「できるだけの治療を受け、ガンの根治を目指す」ことだと思います。
早期ガンの場合は局所治療(手術あるいは放射線など)によって、高い確率で根治を目指すことができます。
一方、ある程度進行したガンでは、(ガンの種類やステージによって差がありますが)局所治療だけでは根治が難しくなります。
進行ガンに対しては、1つだけの治療では不十分なことが多く、いくつかの治療(たとえば手術+抗ガン剤)を組み合わせるのですが、その分、体への負担も大きくなります。
たとえば、高齢の患者さんでは、手術や抗ガン剤治療による合併症(後遺症)や副作用で、生活の質がいちじるしく下がることがあります。
実際に、手術後に抗ガン剤治療の追加(補助化学療法)を行うと、寝たきりのようになってしまった高齢のガン患者さんもいます。
したがって、治る可能性と治療にともなうリスクや負担を冷静に考え、根治をめざすのか、延命をめざすのかを決めるべきです。
まずは根治をゴールに設定して治療を始め、再発・転移により根治が難しいと判断される場合、延命にゴールを変更することもあります。
ガンがさらに進行し、延命さえも難しいような状態であれば、ガンにともなう嫌な症状をできるだけ軽くする、緩和へゴールを変更することになります。
このように、ガン治療のゴールは治療中に変わってくることがありますので、つねに主治医とよく話し合い、現時点でのゴールについての認識を共有する必要があります。
ガン治療の目的を決めるうえで重要なのは、自分の人生観や価値観、「自分がどう生きたいか」ということです。
つまり、「できるだけの治療を受けて、1日でも長生きしたいのか」、あるいは「きつい治療は一切受けず、楽に生きたいのか」といった考え方を尊重すべきなのです。
そして、最終的にガン治療のゴールを決めるのは、主治医でも家族でもなく、患者さん自身です。
主治医に自分の意見をしっかりと伝え、後悔のない治療のゴールを決めてください。
たとえ治療の途中でも、ゴールを変えたいときには、遠慮せずに主治医に伝えましょう。
手術数1000件超の専門医が伝えたい「がんが治る人 治らない人」記事リストはこちら!
心構えや情報収集のやり方などが全5章で解説。治療法ではなく、がんを治すために自分でやれることがまとめられています