「適度な運動」ってどれくらいが適度? デンマーク疫学研究チームの分析で判明

「がん予防にいい食材は?」「食べてすぐ寝ると太る?」テレビやインターネットにあふれかえる情報、一体どれを信じればいいのかわからない・・・。そこで、ハーバード大学や米国国家機関などの統計データを基に、本当に効く健康法をまとめた『長生きの統計学』(川田浩志/文響社)から、正しい健康管理術を連載形式でお届け。クイズ形式なので、ちょっとした話のネタにも使えます。

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死亡リスクを下げるには、どのくらいジョギングをすればいい?


デンマークの大規模な疫学研究チーム「コペンハーゲン・シティ・ハート・スタディ」が行ったジョギングに関する調査によると、次のグループのうち死亡リスクが低いのはどれか

A.まったくしてない
B.週に数回、ほどほどの時間、あまり速いペースでなく
C.週に4回以上、より多くの時間、速いペースで


答え :B 週に数回、ほどほどの時間、あまり速いペースではなくジョギングする

健康の維持に体を動かすことが欠かせないのは、これまで述べてきた通りです。

ただ、運動というと「辛そう」「きつそう」という印象があり、大切だとはわかっていてもつい敬遠しがちという人が多いのではないかと思います。

しかしはたして、人は本当に、辛い運動をずっと続けていかなければ、健康を維持することはできないのでしょうか。

確かに、健康に対する意識が高く、頻繁にジムに通ったり、毎日のように長時間のジョギングを行ったりする人もいます。そういう人は見た目にもスマートでさっそうとしているものですが、実はだからといって、そういう人がもっとも長生きできるかというと、そうとは言い切れないのです。

もちろん運動すること自体は、やらないよりもはるかにいいのですが、死亡リスクとの関連からいうと、ハードな運動を頑張って続けるよりも、適度な運動にとどめておいたほうが効果的であるということが科学的に示されています。

アメリカの4000人以上の男性(平均年齢63歳)を対象に、日頃行っている運動の程度と死亡リスクとの関係を4年間、観察した調査研究があります。

それによると、たまに運動する、または軽い運動をする程度の人は、まったく運動しない人よりも明らかに死亡リスクが低下するといいます。つまり少なくとも何らかの運動をしている人のほうが、長生きできることが証明されているわけです。

ところが一方、運動の程度を比べた調査では、辛いと感じるような激しい運動をしている人は、辛くない程度の軽い運動を習慣にしている人よりも死亡リスクが高くなる可能性があることがわかったのです。

ちなみに同様の結果が、これとは別に行われた計66万人以上の男女を対象とした研究でも認められていますから、信頼性は高いといえます。

またデンマークでは、疫学調査チーム「コペンハーゲン・シティ・ハート・スタディ」によって、大規模な調査・分析が行われ、ジョギングの習慣と死亡リスクの関係についての研究が発表されました。

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この研究によると1万7000人以上の老若男女を対象に、最大35年もの追跡調査を行ったところ、ジョギングをすると寿命が男性で6・2年、女性で5・6年も延びると推計されました。ただしこれには条件があります。

それほど根をつめずに、「ほどほどの時間/あまり速いペースでなく/週に数回程度行っている人」のほうが、「より多くの時間/速いペースで/週に4回以上行っている人」よりも死亡リスクが低いというのです。ここでも、運動のやりすぎによる負の効果が指摘されたというわけです。

運動は確かに健康にいいはずなのに、やりすぎたり厳しすぎたりすると、なぜ私たちの寿命を縮めることにつながってしまうのでしょうか。

実のところ、このメカニズムはまだはっきり解明されたわけではありませんが、医学的に考えられるのは、まず激しすぎる運動を長時間続けると、心臓や血管などに過度の負荷がかかってしまうということです。

たとえばマラソンや駅伝の選手が、ゴール直後に崩れ落ちるような姿を私たちは目にしますが、限界まで走り切った選手は、筋肉だけでなく内臓の細胞にまで大きなストレスがかかっているといいます。

もちろん、そこまでの極限状態ではないにしても、長時間の激しい運動が体に相当なダメージを与えるということは、私たちでも想像するに難くないと思います。もうひとつ考えられることは、活性酸素の影響です。

人間は日常的に酸素を消費して生きていますが、その過程で生じた活性酸素は体を傷つけたり、細胞を酸化して老化の原因となってしまいます。運動をすると酸素をより多く必要とするので、活性酸素もその分多く生じるようになるのですが、ある程度の運動ならそれほど急激に増加することもなく、体内で分解されていきます。

このため、活性酸素による害よりも、運動をすることによって体が活性化するなどのメリットのほうが大きいと考えることができます。

ところが、息が上がるほどの激しい運動を長い時間行うと、活性酸素は大量に発生してしまい、体内では分解が追いつきません。このため、体に残った活性酸素があちこちで細胞を攻撃して、老化を促して寿命を縮めてしまうと考えられるのです。

適度な運動の量は、年齢や体力によって異なりますが、目安となるのは「人と話をしながらできる程度」の運動です。ふだんあまり運動をしない人なら、ちょっと速足でウォーキングをしたり、階段をさっさっと上る程度がちょうどいいかもしれません。

ちなみに運動は、必ずしも続けてする必要はありませんから、細切れの時間を上手に使って体を適度に動かすのがコツです。体が慣れてきたら、たとえばウォーキングなら1日合計1時間程度を週4~5回、ジョギングなら週に3回程度などと無理のない運動量を決めて、日常生活のなかに取り入れていくようにすればよいのです。

【まとめ】週に数回、辛くない程度の運動をする習慣をつけると健康でいられる

データはウソをつきません!『長生きの統計学』記事リストはこちら!

「適度な運動」ってどれくらいが適度? デンマーク疫学研究チームの分析で判明 060-syoei-nagaikinotoukei.jpg確実なデータを基に、「食事」「生活習慣」「運動」「メンタル」の4分野から29の健康情報を紹介。情報の基となる大学や機関名も記載されています

 

川田浩志(かわた・ひろし)

1965年、神奈川県生まれ。東海大学医学部内科学系血液腫瘍内科教授、医学博士。米国サウスカロライナ医科大学内科ポストドクトラルフェローを経て、2015年4月より現職。最先端の血液内科診療に従事しながら、アンチエイジング医学の普及にも注力する。

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『長生きの統計学』

(川田浩志/文響社)

「それ、本当!?」というような科学的根拠のないさまざまな健康情報を耳にする昨今。そんな時代に信頼すべきは、エビデンスのある「データ」です。本書で示されているのは、ハーバード大学やウィーン医科大学といった世界の名だたる大学や、各国の国家機関などの統計データをまとめた「事実」のみ。健康のための統計本です。

※この記事は『長生きの統計学』(川田浩志/文響社)からの抜粋です。

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