最近、疲れやすい、かぜが治りにくいと感じること、増えてきてません? それ、年齢の問題だけでなく、あなたの「姿勢の悪さ」が原因かもしれません。そこで、医学とフィットネスの観点から、正しい姿勢によって健康をもたらす治療法を考案した鍼灸師・岩井光龍さんの著書『1分で姿勢がよくなる!』(あさ出版)から、「姿勢と健康の関係」を連載形式でお届けします。
人体は、重力に適応するように設計されている
地球には引力があり、体は地球の中心に向かって引っ張られています。さらに地球は自転しているから、体には地球の外側へ向けた遠心力も働いています。重力とは引力と遠心力を合わせた力のことだから、私たちが地上に立っていられるのは、引力と遠心力の絶妙なバランス(=重力)のおかげと言えます。
しかし、重力は体に随時のしかかってくるストレスでもある。特に人間は、直立二足歩行という他の生き物よりも不安定な姿勢で行動するので、重力の影響力は大きい。これらの条件に適応するため、つまり、重力の負荷がかかる環境で直立二足歩行する人間が、最も効率よく生活するために、人体は設計されています。
その要となるのが、「脊柱の生理的湾曲」です。
人間脊柱(解剖学用語で背骨のこと)は、頸椎と呼ばれ首の部分と、腰椎と呼ばれる腰の部分が反って緩やかなカーブを描いています。この湾曲は人間独特のもので、他の生き物には見られません。なぜならば、地球上で直立二足歩行しているのは人間だけだからです。
人類に近い類人猿(サル、オランウータン、ゴリラなど)にしても、直立したり二足歩行することはあっても基本は四足歩行なので、首や腰の湾曲(反り)がほとんどありません。
背骨はなぜ湾曲しているの?
では、なぜこのような湾曲が必要なのかわかりますか?
それは、重い頭を支えるためで人間の頭部の重さは、成人で体重の約10パーセント。体重が50㎏の人で5㎏程度になります。結構重たいですよね。重たい頭を乗せて直立二足歩行すると、安定した四足歩行よりも頭部へのが大きくなり、脳にも悪影響を及ぼします。さらに骨格全体にも負荷がかかりやすい。
脊柱は、この衝撃をやわらげるために生理的湾曲を描いているのです。首と腰部分の湾曲には、車のサスペンションのような衝撃吸収の役割があり、脊柱全体の強度を上げています。
転んだだけで、むち打ち症?
もし、首の湾曲が十分でなかったらどうなるでしょう?実は、現代人には首がしっかり湾曲していない人が多いのです。
ストレートネックという言葉を聞いたことはありませんか?文字通り首の骨がまっすぐで、首の生理的湾曲がほとんどない状態をストレートネックと呼んでいます。
別名「スマホ病」とも呼ばれ、パソコンやスマートフォンの普及で前かがみ姿勢でいる時間が長く、その姿勢が習慣化すると、首の湾曲が次第になくなってきて、首周りの筋肉に負担がかかることで肩こり、頭痛、めまい、倦怠感などの原因となります。
ストレートネックの人は、むち打ち症にもなりやすいですね。むち打ち症は、通常ならば交通事故など突然の強い衝撃によって生じるものですが、首の湾曲が十分でないと、転んだり、くしゃみをしただけでむち打ち症になってしまうケースさえあります。
反りを保たないと、腰を痛める
二本の足で歩くためには、腰の生理的湾曲が大切です。この湾曲がなくなるとどうなるでしょうか?
椅子に座って背もたれによりかかると、体が沈み込んで腰椎が後ろ側に突き出た姿勢、つまり、腰の生理的湾曲とは逆の姿勢になりがちです。仕事中、オフィスで椅子に座っている時間が長い人はの反りを意識して姿勢を正さないと、生理的湾曲がしだいに失われていきます。
椅子にもたれかかった猫背の姿勢のほうが、リラックスして楽な気がしますが、腰を支える筋肉に無駄な負荷がかかり、腰痛の原因にもなります。
大リーグのイチロー選手(当時)は、徹底した自己管理でほとんど故障のない選手ですが、ソファーには決し座らないそうです。姿勢を崩した座り方、腰の故障の原因となることを知っているからです。
スポーツ選手の中には、試合や練習中は姿勢を保っていても、オフになるとだらっとソファーにもたれかかるように姿勢をゆるめた生活になってしまう人も多い。実は、このような姿勢が故障につながるケースも多いのです。
姿勢と健康の関係性を5章にわたって多角的に解説。挿絵付きですぐできる「姿勢矯正体操」も