日本人は首や肩がこりやすいといわれています。お辞儀文化が根付く日本では、前かがみの動作が多いからです。また近年、スマートフォンなどの情報機器が登場し、うつむく時間が増えたことも、首こり、肩こりの原因となっています。さかいクリニックグループ代表、酒井慎太郎先生に肩こりについて詳しく伺いました。
前かがみ、うつむき姿勢が「ストレートネック」の原因に
うつむいたり前かがみになると、首が前に出て首の骨「頸椎(けいつい)」に負荷がかかります。例えば、人間の頭の重さは体重の約10%なので、体重50㎏の人なら、頭の重さは約5kg。しかし、頭が4㎝前に出た状態では、頸椎にかかる負荷は4倍に増えて約20kgにもなるのです。
「これだけの重さを支えるには、頸椎だけでなく首の周りの僧帽筋(そうぼうきん)や肩甲挙筋(けんこうきょきん)などに力を入れ続けなければなりません。そのせいで筋肉が疲労して、首や肩のこりが起こるのです」と酒井慎太郎先生は話します。
首や肩のこりが続くと頸椎にも異常が現れます。通常、頸椎は緩やかにカーブを描いているのですが、そのカーブが消えて「ストレートネック」という形状になるのです。
日ごろ首や肩のこりを感じている人は、下の診断方法でストレートネックかどうかをチェックしてみましょう。
初期症状を発見し、早めの対処を
ストレートネックになると、首や肩のこりはますます悪化します。頸椎の動きも悪くなり、周りの神経や血管が圧迫されて、左上の図のような病気になることがあるので注意が必要です。
ストレートネックを防ぐには、「ただの首こり、肩こりだから」とこりを放置するのは禁物。悪化させないように、前かがみになりすぎない生活を心がけます。
「スマートフォンなどは目線と同じ高さで見るようにします。読書や編み物のときも、30分に1回は立ち上がり、体を伸ばすことが大切です」と酒井先生。
運動ではウオーキングが最適です。あごを引き、下を向くのではなく遠くを見るのがポイント。荷物はリュックサックに入れて背負ったり、斜めがけバッグなら荷物を後ろに回して、重心が後ろにくるようにします。
肩こりに影響を及ぼす筋肉と骨(※体を背中側から見た図)
頸椎のカーブが失われる「ストレートネック」とは?
●正常な首
→頸椎がカーブしている
頸椎の7つの骨が前方に向かって緩やかにカーブして、クッションの役割を果たします。頭の重みを分散させることが可能です。
●ストレートネック
→頸椎がカーブしていない
頸椎に負荷がかかり、カーブが失われて真っすぐになった状態。頸椎のクッション機能が低下し、首の周りにかかる負担が大きくなります。
ストレートネックが病気に発展するケースも・・・
ストレートネックを放置していると、こんな病気になる怖れがあります。
1.めまい
首の血管や神経が圧迫されて耳の三半規管への血流が減少。平衡感覚も乱れてめまいを感じます。
2.脳の血流が悪くなる
筋肉が常に緊張状態なので、脳への血流が滞りがちになります。脳の血管への悪影響が懸念されます。
3.頭痛
こりは頭痛の大きな原因の一つ。首が緊張した状態では、自律神経が乱れて頭痛を起こしやすいです。
4.耳鳴り
筋肉が緊張で収縮すると、筋肉に囲まれた血管が圧迫されます。耳の蝸牛への血流が不足し耳鳴りに。
◆自宅の壁でストレートネック診断
ストレートネックかどうかが簡単に分かります。一度調べてみましょう。
<方法>
1 あごを引いて壁を背にして立ち、後頭部、肩甲骨、お尻が壁につくかどうか調べます。
2 正常な人は3か所とも壁につきます。ストレートネックの人は後頭部がつきません。
構成・取材・文/松澤ゆかり イラスト/やまだやすこ
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酒井慎太郎(さかい・しんたろう)先生
さかいクリニックグループ代表。千葉ロッテマリーンズオフィシャルメディカルアドバイザー。柔道整復師。腰痛専門病院などを経て現職。ラジオ、テレビ多数出演。著書に『首・肩の頸椎症は自分で治せる!』(Gakken)など50冊。