年齢を重ねると誰でも、人の名前が思い出せなくなったり、もの覚えが悪くなったりします。こうした「もの忘れ」は加齢によるもので、心配することはありません。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは違います。少しでも早く発見して、いまよりも症状がひどくならないための対策が必要です。最近では、認知症の原因の一つとして「慢性炎症」が注目されています。そこで、慢性炎症の研究の第一人者で、大阪大学名誉教授の宮坂昌之先生にお話をお伺いしました。
たいへん! 体の中で、火事が起きています‼
認知症と深い関わりがある慢性炎症。実は、さまざまな病気を引き起こす"万病のもと"として、非常に注目されています。
「腫れや痛みが出る急性炎症とは異なり、慢性炎症はほとんど症状がありません。知らぬ間に進行して組織を破壊していくことから、"サイレントキラー"とも呼ばれています」と宮坂先生。
そもそも炎症とは、細菌などの異物から体を守るために必要な防御反応。
炎症を起こすことで異物を攻撃し、異物が死滅すれば炎症もおさまります。
これは炎症を起こすアクセルと、炎症を鎮めるブレーキのバランスが取れているため。
ところが慢性炎症では、アクセルをずっと踏みっぱなしの状態に陥り、炎症が慢性化してしまいます。
「これは加齢などで溜まるアミロイドβたんぱくや尿酸などの物質が、周囲の組織に働きかけ、炎症を継続的に引き起こすため。長引く炎症が正常な細胞をも破壊し、小さなボヤが延焼して火事になるように、炎症が全身へと広がっていくのです」
●炎症は体を守るための反応です
急性炎症では、細菌やウイルスなどの異物が侵入してくると、E(炎症性サイトカイン)が炎症を起こして異物を攻撃。撃退すると、Y(抑制性サイトカイン)が炎症を鎮めてくれます。
炎症を起こして異物を撃退!炎症性サイトカイン
↓
炎症を鎮める"火消し役"抑制性サイトカイン
ところが、加齢・肥満・メタボ・高血糖・運動不足・ストレス・栄養不良・睡眠不足などが原因となり慢性炎症になると...
↓
上のイラストのように、慢性炎症では、E(炎症性サイトカイン)の攻撃がいつまでも続くことで、Y(抑制性サイトカイン)による"火消し"が追いつかず、正常な細胞をも破壊してしまうのです。
原因は加齢のほか、肥満、運動不足、栄養不良、睡眠不足なども。
予防のために取り入れたいのが、定期的な運動です。
「運動により骨から出るオステオカルシンというホルモンが、認知機能を改善するともいわれています。ウオーキングやストレッチなど、適度な運動を習慣にしましょう」(宮坂先生)
●運動で予防しましょう!
取材・文/佐藤あゆ美 イラスト/石坂 香