年齢を重ねるとだんだん気になるのが、親や自分に訪れる「認知症」の可能性。ですが、ボケてしまうことよりもっと怖いのは、「老化に伴ううつ病」だと老年精神科医の和田秀樹医師は言います。そこで、和田医師の著書『「脳が老化」する前に知っておきたいこと』(青春出版社)から、老いを迎える前に知っておきたい「心の老化」と「老い支度」について連載形式でお届けします。
40代からすでに始まっている脳の老化
人間の脳(大脳皮質-だいのうひしつ)の表面積は、新聞紙一面(約2200平方センチメートル)くらいで、そのうち脳の各部が占める面積は、前頭葉41%、側頭葉(そくとうよう)21%、頭頂葉(とうちょうよう)21%、後頭葉(こうとうよう)17%となっています。
前頭葉がこれほど発達している動物は、ほかにはいません。人間が人間らしくあることの裏づけが前頭葉の働きだといえるでしょう。
ところが、この大切な前頭葉の萎縮(いしゅく)は、40代から目に見えるようになります。私は、臨床現場で膨大な数の脳のCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴コンピューター断層撮影)などの検査画像を観察する中で、「人間の脳で最初に老化が始まるのが前頭葉」だということを確認したのです。
いわゆる「脳の画像」では、頭蓋骨の内側に隙間なく詰め込まれている脳をイメージしますが、こういった「きれいな脳」の状態を維持できるのは、ふつうは30代が限界です。
個人差はありますが、40歳過ぎから、脳には頭蓋骨との間などに隙間が少しずつできます。
40代になって前頭葉が肉眼でわかるほどに萎縮すると、その人は30代までより創造性、自発性、意欲などの能力が低下してしまいます。
50代、60代になると、さらに前頭葉の機能が低下し、「感情抑制機能」が衰えることから、些細なことで怒ったり、怒鳴ったりするようになる人もいます。
ただ、みんながみんな「問題行動」が生じるわけではありません。そして、前頭葉が萎縮しても、「知能・記憶力はほとんど落ちない」という点が重要です。
前頭葉の機能が落ちても、若い頃からむずかしい本を読んできた人は、これは側頭葉の機能ですので、相変わらず読んで理解できるし、文章力も落ちません。頭頂葉の機能である計算力にも影響はありません。
日々の生活も、まったく変わることなく送ることができます。そのため、かえって自分の感情年齢が変化していることには、なかなか気づかないのです。
自分の感情年齢を知ることが大切
だれにでも訪れる老化ですから、自分の前頭葉がどのくらい高齢化しているかを知っておきたいものです。その「感情の老化」の状況によって、「予防と対策」も行えるからです。
そのためにも、自分の「感情年齢」を知っておく必要があります。
私のオリジナルの「『感情年齢』の自己診断テスト」を、下に掲載しています。まず、このテストでご自身の「感情年齢」にぜひ目星をつけてみてください。
感情年齢には、当然ながら個人差があり、ボケの進み方にも個人差が大きく表れます。
だれにでも年齢を重ねれば脳にボケの兆候が表れます。ただし、脳に変化があっても、日常生活にはまったく支障がないことも珍しくありません。
本人が自分の状況に気づいて、もの忘れをしないように「メモの習慣」をつけたり、日常的に、発言や行動などにも気をつけたりして、うまく適応して振る舞うことで、家族でさえ気がつかないケースもあります。
本人がボケに気づかないことすら少なくありませんが、そんな場合も、本人が幸せならば、まったく問題ないともいえます。
また生前、ボケの症状がはっきりしていたのに、亡くなって解剖したら、脳にはさほどの変化がなかったという人も、かなりの数でいました。おそらく後述するうつ病だったのでしょう。
ひとつ誤解が多いのは、ボケが「急にくる」ということ。認知症は「急に発症する」ということはほとんどなく、「ゆっくり進行する」のです。
ある時期、ある日、急にボケるということはまず起こらなくて、そういう場合は、ほかの原因が考えられます。その代表的なものが「老人性のうつ病」です。「心の老化」を考えるうえでは、この老人性うつ病への予防と対策もしっかり取る必要があります。それに関しては、後ほど詳しくお話ししていきます。
それはともかく、ほとんどの場合、ボケはゆっくりじわじわと進むので、「いきなりボケて困る」ということはないのです。
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