味覚障害は、味覚の異常の状態をいい、50~70代に多く見られ、高齢化とともに患者数が増えています。直接的に命に関わる病気ではありませんが、食欲低下により栄養不足を招く、塩分や糖分の摂り過ぎで血圧や血糖値を上げる、食べる喜びを失い抑うつ状態に陥るなど、健康維持に支障を来す恐れもあります。味覚障害はいったいどういう病気なのでしょうか?どういう仕組みで起こる病気なのでしょうか? 日本大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野助教の田中真琴先生に伺いました。
■味覚障害ってどんな病気?
「何を食べても味が薄く感じる」「口の中がいつも苦い」などといった味覚の異常の状態をいいます。舌で味を感知するのは、粘膜にある味(み)蕾(らい)と呼ばれる器官内の味(み)細胞(さいぼう)ですが、味細胞が食べ物などに含まれる化学物質を感知すると、それが電気信号となって脳へ伝わり、味覚中枢で味覚を判断します。味覚障害はこの伝達経路のどこかが"故障"することで起こります。
■舌で味を感じるしくみとは?
※舌の表面の細かな突起部「舌乳頭」には味を感じ、伝達する「味蕾」が分布しています。味蕾の数は口腔内に8,000~1万個あるといわれ、多くは舌に存在しています。味蕾の中にある「味細胞」で受容した味が、味神経を通って脳の中枢神経に伝えられ、味を判断します。
味蕾の拡大図
■味覚障害の原因って何?
原因はさまざまですが、亜鉛欠乏との関連性が高いといわれています。
味細胞は新陳代謝によって再生を繰り返していますが、亜鉛が不足すると味細胞の再生が追いつかず、味覚障害が起こりやすくなると考えられています。
亜鉛不足の原因は、日本人の亜鉛摂取量が多くないことに加え、亜鉛と結合して体内への吸収を妨げ、体外へ排出する作用のある薬剤や食品添加物の存在があります。味覚障害と関連する薬剤は300種類ともいわれ、他の病気のために薬を服用している私たち世代は特に注意が必要です。また、加齢に伴う唾液の減少により口腔環境が悪化し、舌に炎症が生じる、舌に汚れがたまるなどで、味を感じなくなったり、介護などの強い精神的ストレスによって、心因性の味覚障害に陥ることもあります。
■こんな症状が出たら味覚障害!?
□何を食べても味が薄く感じる
□味の区別がつかない
□基本味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)のうち単独で分からない味がある
□口の中に何もないのに苦味・塩味がある
□何を食べてもおいしくない
□食べ物本来の味がしない
自然治癒することもありますが、治療開始が早いほど治癒するのも早いので、2週間たっても症状が治まらなければ、耳鼻咽喉科か口腔外科を受診しましょう。
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取材・文/古谷玲子(デコ)