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「うつ病の人に、『がんばれ』という言葉は言わない方がいい」というのもその一つです。うつ病になる人はまじめな人が多く、これまでがんばり過ぎてきたのだから、「がんばれ」という激励はさらに追い詰めることになる、というのが主な理由です。
それに異を唱えるのは、獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授の井原裕医師です。『激励禁忌神話の終焉』(日本評論社)という本を書いています。「禁忌」とは「してはいけないこと」という意味で、医学界ではよく使われます。激励してはいけないというのは神話であり、それはもう終わったというタイトルは、とてもインパクトがあります。
日常生活に復帰するにはがんばることも必要
うつ病にはいろんな段階があります。眠れない、食べることができない、何もする気になれないといった症状が強い急性期には、抗うつ剤を使い、休養することが大事です。しかし、ずっと休ませていいわけではありません。
回復期は、ちょっと調子が良くなったり、また悪くなったりという波を繰り返しながら、徐々に良くなっていきます。このとき、少しだけ背中を押してあげることが、うつ病を長引かせないことにつながるというのです。回復期になっても、これ以上がんばらなくていいから、ゆっくり寝てなさいと言っていると、仕事のスキルも体力もますます落ちていきます。朝決まった時間に起きて、満員電車に乗って会社に行くという日常生活に戻るには、メンタルでもフィジカルでも、少しずつ、少しだけ、がんばることが必要ということです。
いま健康情報があふれています。そのなかには医学的根拠のないものも少なくありません。また、新たな発見によって書き換わる情報もあります。そうした情報とかしこくつきあいながら、常に「常識」を疑いながら、更新していく柔軟な姿勢が大切です。
鎌田 實(かまた・みのる)さん
1948 年生まれ。医師、作家、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行(ゆぎょう)を生きる』(清流出版)、『検査なんか嫌いだ』(集英社)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規)。