誤嚥性肺炎の恐れも...。加齢と生活習慣が招く病気「逆流性食道炎」の基礎知識

「逆流性食道炎」って聞いたことがありますか? 加齢と生活習慣が招く病気で、誤嚥性(ごえんせい)肺炎の恐れもあるため、私たちの世代は注意したい病気なんです。そこで、東邦大学大森病院 がんセンター 長島田英昭(しまだ・ひであき)先生に、症状や治療法を教えていただきました。

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「みぞおちがしみる感じがする」「ゲップをすると酸っぱい液体がこみ上げてくる」「のどがつかえる感じがする」などの自覚症状があったら、「逆流性食道炎」かもしれません。

胃液が逆流して、食道に炎症を引き起こす病気です。

食道と胃の境目には「噴門」があり、筋肉(下部食道括約筋)によってしっかり閉じられていますが、加齢などにより筋肉が衰えると、胃液が逆流しやすくなります。

ほかにも、「食道裂孔」という隙間が加齢により緩むと、胃の一部が横隔膜の上部にはみ出して(食道裂孔ヘルニア)、噴門部の締めつけができなくなり、逆流が起きやすくなります。

食べ物の消化に必要な胃液には、酸度が高い胃酸が含まれています。

食道の粘膜は胃と違って酸の強さに耐えられないので、胃酸にさらされ続けると炎症を引き起こし、びらんや潰瘍を発症させてしまうのです。

上記の「主な症状」のほかに、慢性的な咳、ぜんそくのような発作、睡眠障害などに陥ることもあり、日常生活に支障を来します。

まれではありますが、何度も繰り返すうちに、食道腺がん(バレット腺がん)に移行することもあります。

70代以上の高齢者では、就寝中に逆流した胃酸によって、誤嚥性肺炎を起こすこともあり、特に気を付ける必要があります。


どうなっている⁉ 胃と食道の境

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[主な症状]
・胸焼け(みぞおち辺りが焼ける感じ)
・つかえ感(何かがのどにつかえる感じ)
・呑酸(胃から何かがこみ上げてくる感じ)
・胸痛(胸が締めつけられる感じ

[主な治療法]
・食事の方法、姿勢、寝方の工夫など生活習慣の改善が基本
・胃酸の分泌を抑える薬や食道粘膜を保護する薬の服用

《こんな人は逆流性食道炎になりやすい》

□ 高齢者
□ 生活習慣などに問題がある人
 ・消化の悪いものをよく食べる(脂肪の多いもの、胃を刺激するもの)
 ・消化の悪い食べ方をする(よくかまない、大食い、食べてすぐ横になる)
 ・太っている(内臓脂肪が胃を圧迫する)
 ・猫背や前かがみ(背中や腰が曲がるとおなかにかかる圧力が大きくなる)
□ ストレスの強い人
 ・食道粘膜が過敏になる
 ・脳が刺激のある食べ物を欲するようになる
□ 病気など
 ・ピロリ菌のない人(胃酸の分泌が活発になる)
 ・食道裂孔ヘルニアのある人
 ・糖尿病の人
 ・睡眠時無呼吸症候群の人
 ・胃の切除手術の後遺症


日誌で引き金を知り、炎症の原因を取り除く

食道炎の有無は問診のほか、内視鏡検査で確認します。

診察で引き金を見つける手助けに、症状日誌は有効です。

いつ、何を食べたら、どういう症状が出たかを記録します。

治療の基本は、生活改善です。

軽症であれば、それだけで症状がおさまることもあります。

予防もできるので、上記を参考にしてみてください。

薬物療法では、様子を見ながら薬の種類や量を段階的に調整します。

初期は、胃酸分泌抑制薬「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」を試します。

タケプロンやパリエットのほか、切り札的にタケキャブという薬が使われます。

より有効性が高く、即効性がある薬です。

ほかに粘膜保護薬を併用することもあります。

薬をやめると、約8割が再発します。

症状が消えても、薬の飲み方は、主治医とよく相談することが大切です。

薬で改善しない、炎症を繰り返して食道が狭窄する、大きな裂孔ヘルニアがある場合などには、手術を検討します。

自身の体の状態を知るために、50歳を過ぎたら一度内視鏡検査をしておくと安心です。

生活習慣で改善できます!

姿勢

おなかを圧迫しない
前かがみの作業、きついベルト、長時間のパソコン、猫背を避ける

横になるときは「左側を下」にする

上半身を高くして(10~15度)寝る

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食事

逆流が起きやすい食後2~3時間は横にならない

食事に意識を向ける
早食い、大食い、大酒、甘い物、刺激物を避けて、腹八分目に

消化を良くする食べ方(よくかむ)を心がける

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【おすすめ食材】
キャベツ、リンゴ、牛乳やブロッコリー、かぼちゃ、にんじん、牡蠣、白身魚、鶏のささみ、豆腐、じゃがいもなど。胃の粘膜を保護するビタミンU、胃壁を守るペクチンを含むもの、消化を助ける大根や山芋、ネバネバ食品や乳製品が良い。

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【避けたい食材】
霜降り肉、トウガラシ、ビールや青魚、きのこ、玄米、にんにく、トマト、たこ・いか・貝類など。脂肪分の多い肉や魚、刺激の強い香辛料・カフェイン、繊維の多い穀類・野菜、酸度の高い果実、膨満感の原因となる炭酸飲料は避ける。

※朝:昼:夜の食事量を、5:3:2にすると効果的

その他

ストレスを減らす
ストレスを受けると、胃を守る粘液の分泌が減り、胃液(胃酸)の分泌が増えてしまう

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取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/片岡圭子

 

<教えてくれた人>
東邦大学大森病院 がんセンター長
島田英昭(しまだ・ひであき)先生
千葉大学医学部卒。千葉県がんセンター主任医長などを歴任。現在、東邦大学大学院消化器外科学・臨床腫瘍学教授を併任。著書に『逆流性食道炎は自分で防ぐ!』(池田書店)。

この記事は『毎日が発見』2020年12月号に掲載の情報です。

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