がん治療の専門医に聞く「なぜ病院によって扱っていない薬があるのか?」

「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。

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病院によって扱っていない薬がある?

――病院についても聞きたいのですが、病院によって受けられる治療が違う、ということはやっぱりあるんですか?

明星先生 本来ならばどこでも平等な治療ができるのが理想なのですが、残念ながら病院によって治療の範囲はあります。たとえば、PET検査ができるところとできないところ、放射線治療ができるところとできないところなど、診療科の違いや医療機器の違い、また勤務する医師の違いなどによって診断のスピードや治療方針が変わってしまうことも実際にはあります。

――たしかにそれは、資金力だったり経営の問題も関わってきますもんね。ちなみにですけど、病院によって出せる薬とか出せない薬とか、そんな違いはさすがにないですよね?

明星先生 鋭い指摘です。実はですね、薬剤に関しても病院によって異なることがあります。

――え?!そうなんですか!?

明星先生 はい、そうなんです。製薬会社も薬剤の種類も多いので、物理的にすべての薬剤を扱うのは難しいんです。とはいえ、胃薬や高血圧、糖尿病、高脂血症などの薬は複数の製薬会社が販売しているので、治療に決定的な差が出ることはありません。

――なんだ!それなら安心ですね。

明星先生 ただですね、がんの場合は違ってきます。

――なんだか怖い雰囲気ですね......。

明星先生 ある抗がん剤が、Aという病院では採用されていても、B病院では採用されていないので使えない、ということも起こるんです。

――出た?!怖い話ですね。何でそんなことが起きるんですか?

明星先生 病院には薬事審議委員会というものがあり、そこで新薬などの採用を決定しているんですが、採用して入荷しても、対象患者さんが少ないような疾患の場合は病院が在庫として抱えることになってしまいます。

――在庫リスクの問題ですか!

明星先生 そうなんです。抗がん剤は他の薬剤と比べて薬の価格がとっても高いんです。さらに、薬剤にも使用期限が決まっているのが大きな問題です。

――え、消費期限があるんですか!?

明星先生 そうなんです。たとえば、3年に1人くらいしか治療しないような珍しいがんに対する薬剤をずっとストックして、期限が切れたら破棄というのは病院にとっては非常に効率が悪くなります。薬剤の価格が高ければ高いほど、リスクが高くなってしまうというわけです。ただ、残りの使用期限がまだ1年以上あるような場合は卸(おろし)会社が買い取ってくれたり、必要なときだけ適宜購入するというシステムもあります。

――病院も法人ですし、そういう在庫は抱えたくないのは当然といえば当然ですね......。

明星先生 もう一つ、人的な差もあります。

――人的な問題?

明星先生 たとえば、サレド(一般名はサリドマイド)やレブラミド(一般名はレナリドミド)という多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)の薬剤は、日本血液学会が認定する血液専門医でないと処方してはいけない、という決まりがあります。つまり、血液専門医がいない施設では、これらの薬剤の採用はできないということになります。

――そういうことですか!扱えるお医者さんがいないと仕入れられない薬があるということですね。

明星先生 そのとおりです。ほかにもゼヴァリン(一般名はイブリツモマブ チウキセタン〔遺伝子組換え〕)という悪性リンパ腫に対する抗がん剤は、国から認定を受けた施設でないと投与ができません。現時点で、東京都内でゼヴァリンを投与できる認定を受けている施設は10施設とちょっとしかないんです。

――東京都内でも10!そんなケースが!

明星先生 以前、某有名大学病院から、私の勤める病院にゼヴァリンを投与してほしいと紹介を受けたことがあるくらいです。

――そういうことがあるとすると、病院選びもますます難しくなってしまいますね。

明星先生 もちろん、たくさんの薬剤を採用している病院が優れているわけではないんです。大事なのは、その病院で採用されている薬剤以外にも選択肢がある可能性を認識することです。

――選択肢があるということを知っておけば、先生に本当にその治療法や薬がベストなのか確認することもできそうですね。

明星先生 そのとおりです。今は病名がはっきりすれば自分で調べることもできます。医師側も、「自身の病院では対応できないが、他院ではできる」と治療の選択肢を提示すべきだと私は考えていますので、患者さんが自身で知識を得るということは、よりよい治療につながっていくと思います。

【まとめ】
病院によって、薬剤の取り扱いがない場合もある。
治療の選択肢を広げるためにも、病名がはっきりしたら自分で調べてみることも大切。

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9784799108369 (2).jpg「がんは遺伝する?」「仕事はやめなきゃいけない?」「感染するがんがあるって本当?」など、40を超えるテーマについて専門医に質問、対話形式でわかりやすくまとめられています

 

 

明星智洋(みょうじょう・ともひろ)

江戸川病院腫瘍血液内科副部長 兼 感染制御部部長。東京がん免疫治療センター長。MRT株式会社 社外取締役。1976年岡山県生まれ。高校生の時に、大好きだった祖母ががんで他界したことをきっかけに医師を目指し、熊本大学医学部入学。その後、医師国家試験に合格。血液悪性腫瘍およびがんの化学療法全般について学ぶ。血液専門医認定試験合格、がん薬物療法専門医最年少合格。専門は、血液疾患全般、がん薬物療法、感染症管理。現場と最新の医療情報を知る医師の観点から情報を発信している。

 

松本逸作(まつもと・いっさく)

作家、ライター。年間ベストセラーランキングに入る実用書やビジネス書をはじめ、サブカルやグルメを扱ったウェブ記事、漫画原作など、多岐にわたる媒体・ジャンルでマルチに活躍。

 
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『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』

(明星智洋、松本逸作/すばる舎)

予防法は?早期発見するには?身近な人がかかったら?最適な治療法は? そんな疑問を、最先端の治療に携わり、数多くの有名人も治療してきた名医が、現場の知識と最新の研究もふまえ「おすすめの病院」まで教えてくれます。対話形式でわかりやすい構成が魅力の「がん」に備える入門書として最適の一冊です。

※この記事は『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(明星智洋、松本逸作/すばる舎)からの抜粋です。
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