「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。
どんな病院にかかるのが正解?病院選び4つの基本ポイント
――先生、診察を受けたり治療をしたりしていくにあたって、どんな病院で治療してもらうのがベストか聞いていきたいのですが、どんなことを考えておくといい病院やいい先生を選べるんでしょうか?
明星先生 非常に大事なところですね。おそらく多くの方は、検診などを受けてがんと診断されたクリニックや病院から紹介されたところにそのまま行く、というパターンだと思います。
――紹介された病院なら間違いないだろう!と思ってしまいますけど......よくないんですか!?
明星先生 いえいえ、それが悪いわけではありません。ただし、その病院が本当に適しているのか、いくつかポイントを知っておくといいかと思います。
――ポイントですか、ぜひ教えてください!
明星先生 はい。まずは大きく4つの観点があります。
病院選び4つのポイント
(1) 手術で治癒を目指す場合には、症例数の多い病院
(2) 化学療法や放射線治療がメインになる場合は、自宅から近い病院
(3) 生活習慣病や心血管疾患などの合併症がある場合には、総合病院
(4) キャンサーボードが設置されていると理想的
という4つのポイントです。
――では一つずつ聞いていきたいのですが、「手術で治癒を目指す場合には、症例数の多い病院」というのは?
明星先生 はい。がんの進行がまだ浅く、手術で十分治癒が見込める場合には、手術が得意な病院を探したほうが確実性が高くなります。ステージが進んでいたとしても、また通常の外科医なら切り取れないようながんでも、ゴッドハンドのスーパードクターがいて切除できる可能性があるなら、たとえ遠くの病院でも受診するべきです。
――なるほど、そういうことですか!その病院が手術が得意かどうか調べるにはどうすればいいんでしょうか?
明星先生 はい、その指標の一つとして手術の症例数があります。症例数の多い病院は経験豊富ということなので、おすすめです。手術症例数は「病院情報局」のホームページから検索ができるようになっています。アドレスはこちらですね。
――では2つ目の「化学療法や放射線治療がメインになる場合は、自宅から近い病院」というのは?
明星先生 はい、抗がん剤を使った化学療法や放射線治療は基本通院になります。使う薬によって通院ペースは変わるのですが、中には毎日投薬が必要なものもあるんです。
――毎日ですか!
明星先生 たとえば7日間連続で注射をして、その後、間を空けてまた連続で投薬......といった具合で、それぞれ投薬のスパンがあるんです。放射線治療の場合も、土日祝日を除いて原則は毎日通院で放射線を照射していきます。
――そうなってくると、たしかに距離は大事ですね。毎回片道2時間も3時間もかけていたんじゃえらいことになりそうです。
明星先生 はい。がん患者さんにとって、自宅からの通院で体力を消耗するのはできるだけ避けたいところですし、自宅で発熱があったり息苦しくなったりなどで具合が悪くなった際に、救急車を呼ぶことがあるかもしれません。そんなときに、あまりにも遠い病院だとその救急車の管かん轄かつ外がいとなり、搬送してくれない可能性もあります。
――遠すぎると運んでくれないんですか!?
明星先生 そうなんです。となると、近所の救急病院に搬送されるか、タクシーなどを利用して遠方のかかりつけの病院で受診するか、といったことになってしまいます。
――そんな事態は避けたいところですね!
明星先生 はい。なので、外来での治療がメインになってくる場合には、少しでも自宅から近い病院での治療をおすすめします。どうしても遠方の病院に通院をしたいという場合には、あらかじめ何かあったときのために近くの病院宛に「診療情報提供書」を用意してもらったほうがいいでしょう。そうすると、急患でも治療の状況を把握できます。
――では、3つ目の「生活習慣病や心血管疾患などの合併症がある場合には、総合病院」について教えてください。合併症のあるなしで何か変わってくるんですか?
明星先生 はい。手術にしても化学療法にしても、合併症の有無は極めて重要な要素になってきます。
――そうなんですか!
明星先生 たとえば腎(じん)機能が悪くて透析(とうせき)を行っているような場合には、その病院に透析の設備があるかどうか確認する必要があります。がん専門の病院などは、透析の設備がないことが多いんです。
――そういうことですか!並行して治療を進めないといけないときには、設備環境の問題が出てくるんですね。
明星先生 はい、そうなんです。心臓も同様ですね。抗がん剤治療の副作用で心臓に負担がかかるものもあります。抗がん剤治療中に心不全などになった場合は循環器内科に相談して治療できる環境があったほうが安心です。私が以前勤務していたがん専門病院には循環器内科がなかったため、必要となった場合は、近隣の循環器を診てもらえる病院に転送していました。しかし、転送先の病院はがんに関する診療科がないこともあります。つまり、臓器合併症がある場合は、がん専門病院よりは大学病院や市中病院などの総合病院のほうがおすすめなんです。
――がん専門病院だと、がんだけに特化した設備になっているんですね。
明星先生 そうなんです。どんな合併症を持っているかにもよるのですが、合併症がある方の場合、基本的には総合病院をおすすめしたいと思います。
――では、最後の「キャンサーボードが設置されていると理想的」とは?
明星先生 がんの治療の選択肢を広げるためには、外科医だけではなく、抗がん剤治療を行える腫瘍(しゅよう)内科、放射線治療を行える放射線治療医がいて、定期的にそれらの医師がキャンサーボードを開催しているところが理想です。
――キャンサーボードは、複数のお医者さんがチームを組んで治療方針を決めてくれるシステムですね!
明星先生 そうです。このような体制がある病院は医師同士の連携がとれていますので、患者さんとしても安心な環境だと言えるでしょう。
――たしかに患者の立場としてはありがたい話です。では、以上が基本の4つとして、さらに考えておくといいことはありますか?
明星先生 そうですね、たとえば本人の生活スタイルがあります。
――生活スタイルですか?
明星先生 はい、若くて仕事をバリバリやっているような方は、抗がん剤治療や放射線治療を外来でやっているところのほうが適しているでしょうし、診療時間も平日の昼間だけでなく、夜間や週末も診療を行っている病院を探してみるといいかもしれません。
――たしかに、平日の昼に簡単に抜け出せない場合は夜間診療の病院はありがたいですね。
明星先生 さらにもう一つ、サポートしてくれる家族が近くにいるかどうかも治療を進めていく上では重要な観点です。
――家族ですか!
明星先生 はい。がん患者さんは体力的にも精神的にも追いつめられている人が少なくありません。自宅の近くに子どもや兄弟がいてサポートしてくれる体制があればいいですが、たとえば親子が離れて住んでいる、というような場合はその近くの病院で治療をすることも選択肢の一つとして考えてもいいかもしれません。
――うちの両親は長野に住んでいるのですが、もし母や父ががんになったら、自宅の近くに呼ぶというのも一つの手というわけですね。
明星先生 必ずしもそれがベストというわけではありませんが、治療中は物理的な距離が近いほうが精神的に安心できるのは間違いありません。すべてが100点ということは難しいかもしれませんが、いざということになる前に、病院のピックアップをしておいてもいいかもしれません。
【まとめ】
ケースによって最適な病院は変わってくる。
近くの病院の特徴をリストアップしておくと比較しやすい。
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