「2人に1人がかかる」と言われるほど身近な病気である「がん」。ただ、断片的な情報は知っていても、検診や予防、基礎知識など「実はよくわかっていないのよね」という人も多いのではないでしょうか? そこで「がんにまつわる気になる疑問」を、最新の知識を備えたがん治療のスペシャリスト・明星智洋先生に尋ねた注目の新刊『先生!本当に正しい「がん」の知識を教えてください!』(すばる舎)から一部を抜粋、最新の「がんの知識」を連載形式でお届けします。
最新の血液検査、腫瘍マーカーでわかること、わからないこと
――先生、腫瘍マーカーについて詳しく聞きたいのですが、あらためて、どういうものなんでしょうか?
明星先生 腫瘍マーカーは血液検査の一種で、がんと関連性のある物質の量を数値化したものです。ホルモンや酵素、タンパクなどの数値を見るもので、がんの組織によってその種類も異なります。
――腫瘍マーカーという物質があるわけではないんですね!
明星先生 そうなんです。がんが発生したときに出てきやすい物質の量を測定する、というような検査方法になります。たとえば肺、胃、すい臓、胆嚢(たんのう)、大腸、卵巣などにできるがん、いわゆる「腺がん」があるとCEAという腫瘍マーカーが上昇します。そのため、CEAが上昇していたら、このあたりの臓器に悪性腫瘍があるのではないかと検索していくわけです。
――ある程度まで絞れるわけですね。でも、種類が多いんですよね?どれくらいあるんでしょうか?
明星先生 ざっと50種類はあり、それぞれ対応する箇所が異なります。ですから、全部受けるというのは現実的ではないんですよ。
――え、50種類!?どうりで全部受けるのは無理なわけです......。1回おいくらくらいなんでしょう?
明星先生 実施する病院で若干異なると思うのですが、だいたい一つのマーカーで1000~3000円前後が自費でかかってきます。代表的なマーカーを数種類まとめて受けて1万円前後、という感覚かなと思います。
――いくつかやって1万円......年に1度なら思ったより高くないような気はしますが......それでもそれなりのお値段ですね。
明星先生 はい、決して安いものではありません。さらに、腫瘍マーカーも絶対的なものではありません。
――先ほど、数値が高く出たとしても必ずしもがんというわけではない、とおっしゃってましたよね。
明星先生 はい、さらに言うなら、「がんがあっても腫瘍マーカーが上昇しない」というパターンもあるんです。
――え!そんなパターンが!?困ってしまいますね。
明星先生 個人の病歴による差や生活習慣などで数値が変わることがよくあって、たとえばCEAというマーカーは、喫煙習慣や腹水という症状がある人では上昇しやすくなります。口の中や肺、肛門など粘膜組織からできる扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんのマーカーであるSCCはアトピーなどの皮膚疾患があるだけでも上昇します。
――ゆらぎがあるんですね。でも、これをお医者さんたちはどう見ていくんですか?
明星先生 はい、数値そのものだけで判断するというよりも、「数値の推移」を見るのも重要なんです。たとえば1年前に正常値だったものが、直近でいきなり10倍以上の数値になっていたときなどはがんを疑いやすくなります。
――定期的というのがやっぱり大事なんですか。
明星先生 はい。他にも、がんと診断されたあと治療の効果を見るときは非常に参考になります。診断時に高かった腫瘍マーカーが下がっていけば治療は有効であるし、逆に下がった後に上昇してきたような場合は、再発を疑う必要がある、という具合です。
――なるほど!それは使えそうです。
明星先生 また、CTなどでリンパ節が腫れていてがんだとわかったとき、そのがんがどこ由来のものか、大本の部位を探す場合にも腫瘍マーカーは役立ちます。この場合は何種類かの腫瘍マーカーを試して検査していきます。
――時と場合によって使い方があるんですね。
明星先生 はい。検診で使う際には、腺がんのマーカーの「CEA」と「CA19-9」、扁平上皮がんのマーカーの「SCC」あたりを測定して、男性なら前立腺がんのマーカーの「PSA」を見ておくとかなり効率的かなと思います。
――CEA、CA19-9、SCCの3種類と、男性はPSAを加えた4種類、ですね。
明星先生 はい、できる限りやっていただけると診断の参考になるかなと思います。
■明星先生推奨の腫瘍マーカー3(男性は4)種
(1) CEA
(2) CA19-9
(3) SCC
(4) (男性の場合)PSA
【まとめ】
腫瘍マーカーの数値は絶対ではないが、推移などを見ることで発見確率は高まる。
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