「最近やせにくくなってきた」「手足のむくみが気になる」・・・。実はこうした悩みは「腸の健康」を保つことで、解決できるかもしれません。というのも腸は、食べ物を消化吸収して便を作るほか、質のよい血液をつくる工場のような役割も果たしているからです。そこで、日本で初めて「便秘外来」を開設した"腸のスペシャリスト"による話題の書籍から、「腸」が本来のチカラを発揮してくれる「1分でできるメソッド」を連載形式でお送りします。
実は脳よりすごい、腸のチカラ
「便秘が改善して一番うれしい変化は、毎日が楽しく送れるようになったこと。イライラすることや、小さなことでウジウジ悩むことが減りました!」
長年、頑固な便秘に悩んでいた患者さんがある日、こんな話をしてくれました。
「便秘が治ったら、性格まで変わったみたい」、こうした実感を語る患者さんはとても多いんです。お通じがよくなったことでストレスが軽くなったといえますが、医学的に見ても深い理由があります。
実は、腸は幸せをコントールできる臓器なのです!
というのも、人間の感情や気持ちなどを決定する神経伝達物質の多くは、腸でつくられているからです。幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」もそのひとつ。幸せや愛情を感じるホルモンで、心身の安定にも深く関係しています。
セロトニンは食物に含まれるトリプトファンというタンパク質から合成されているのですが、その役目を担っているのが腸内細菌です。どんなにたくさんの食物をとっても腸内細菌がしっかり働かなくては、セロトニンができませんし、脳に送ることもできなくなります。
セロトニン不足はストレス障害やうつ症状などを招く原因になります。しかもセロトニンの生成量が減ると、睡眠をうながすホルモン「メラトニン」の量も減るため、うつ症状には不眠症をともないやすくなります。
良好な腸内環境を保てるようになると、セロトニンやメラトニンの生成もスムーズになって、気持ちも明るく安定する―という好循環が生まれます。
さらに、腸にはもうひとつ特筆すべき特徴があります。それは脳からの指令なしで働く臓器であるということ。たとえば、腐ったものなど体に害があるものを食べて、嘔吐(おうと)や下痢の症状が出るのは、腸が体を守る判断をしているからです。
腸には脳に次いで多くの神経細胞が存在し、腸単独の判断で動いていることから、最近では「第2の脳」と称されています。しかし、私は「脳が第2の腸である」とすべきだと考えています。その理由は生物の進化の過程に見ることができます。
腸は脳ができ上がるはるか昔から存在していました。ミミズのように全身が腸のような生物が存在しているように、生命にとっては脳よりも腸のほうが根源的なものです。ほとんどの動物は「脳」ではなく、「腸」から形成され、心臓や脳などさまざまな臓器が形成されていきます。
しかも、情報の伝達や処理に関わる神経系の細胞が最初に誕生したのは、脳ではなく腸だったということが明らかになっています。
さらに、腸は脳と密接に関わっていて、自律神経やホルモン、神経伝達物質などの働きを通して影響し合っていることがわかっています。ですから、脳にとっていいことは腸にとってもいいことで、腸にとっていいことは脳にも好影響をもたらします。
腸はストレスの影響を受けやすい臓器といわれていますが、脳が受けたストレスは脊髄と自律神経を通じて、腸の神経細胞にも伝達されます。一方、腸の調子が悪いと不安や不快感、痛みのストレスが脳に伝わり、負のスパイラルになりがちです。
逆にストレスを軽減できれば腸の調子が整い、腸の調子がよければ脳のストレス軽減にもなります。腸の働きがよいとセロトニンの生成も盛んになります。ですから「便秘改善によって気持ちが明るくなった」、「イライラしなくなった」というのも、うなずけますね。
腸の秘密から、腸が喜ぶ習慣やストレッチまで、すぐできる「腸活」をわかりやすく紹介