公平に思える「相続人平等」のルールがかえって争いを招く!?/法律のプロと相続を考える

pixta_17417133_S.jpg戦前の日本は、戸主を中心とする「家」を基本として相続に関する法律を決めていました。戸籍上の家の長である戸主が亡くなった場合、原則として【長男】が全ての権利と義務を引き受けることになっていました。これが【家督相続】と言われるのものです。

全ての権利と義務を引き受けるということは、その家を守っていくことも【長男】の役割になりました。これは【武士の相続の原理】を取り込み、すべての市民の法律にしたものと言われていました。

戦後、日本国憲法制定に伴い、法律の大改正が行われました。これにより、長男が単独ですべてを引き継ぐ家督相続の制度は廃止され、現在のような「相続人となる子どもは全員均等」という考え方になりました。そして、これこそが現在、相続において争いの種になってしまっているのです。

そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。

第7回目の今回は、「相続人が全員平等のルールにおける問題点」についてご紹介します。

第6回目の記事はこちら→「遺言状は認知症になる前に!超高齢化社会における相続の注意点

「家督相続」は良かった?

戦前の「家督相続制度」には、男尊女卑の考え方が強くありました。その点での賛否はありますが、相続による円滑な資産承継という点では、とても良い制度であったと言えます。

長男は全ての財産を引継ぐ代わりに、残っている親、弟妹、その他家族を含めた【家】を守っていく。そのような存在でしたので、現在のように資産をどのように分配するかについて争いの余地はありませんでした。

また「隠居」という、生きている間に次の戸主に相続させる制度もありました。現在のように「死亡」することでしか相続が開始されず、生きていても認知症等で判断能力が低下し、資産承継ができなくって塩漬け状態になってしまう事態も発生しませんでした。

「相続人全員一致で決める」という厳しいルール

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昭和22年に、相続の法律が大改正されました。これまでの家督相続制度が廃止され、子どもは全員、相続人として均等の権利をもつことになったのです。

民法のルールに従った遺言書を作成しておけば、基本的に資産を承継させたいと考えている相続人に相続させられます。しかし、遺言書がない場合、子どもは全員、相続人として均等な権利をもっているため、一部の相続人の意向で誰か一人に資産等を承継させることはできません。必ず「相続人全員一致」による遺産分割協議を行ったうえで、資産等の承継先を決めなければならなくなってしまいます。

こうした仕組みの下にある遺産分割協議の場では、相続人たちから様々な主張が出されることになります。

「俺は長男だ!」VS「兄貴は親の面倒、一切見ていないだろ!」

長男「自分は長男だし、普通に考えたら自分がこの家を相続すべきだと思う」

次男「いやいや、兄貴は結婚してなかなか実家にも帰ってこなかったじゃないか。自分はずっと亡くなった父親の介護もしてきた。介護費用も一部負担している。妻にもかなり迷惑をかけている。それなのに兄貴が相続するなんておかしくないか?」

長女「うちにはこれからお金がかかる子どもが2人もいる。介護をしてくれた兄さんには感謝しているけどそれと相続は別。法律で決められている通り分配してもらいたい」

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遺産分割協議の場で、このような話になることも珍しくありません。子どもたちにはそれぞれ言い分があり、相続分を主張したい事情もあります。「長男である」という主張もまだ見られます。

とくに生前から介護を必死にやってきていた相続人にとって、相続は「これまでの自分の努力を清算してもらえる場」です。そして、今まさに金銭的な問題に直面している子どもからすれば、相続は「今の危機を回避できるかもしれない機会」となります。

こういった主張のぶつけ合いが親が亡くなった後に起こると、妥協点を見つけて着地することがとても難しくなります。他人であれば遠慮もあるのですが、身内だからこそ本気でぶつかりあってしまう。相続では、そんなことが非常によく起こります。

このような事態にしないためには、親が生きている間に、それぞれの事情を共有できる土壌を作っておくことが大切です。資産等を残す親としても、子どもたちがどのような現状にあるのか、どのような希望を持っているのかを、まずは把握しておきましょう。そのうえで遺言書等をしっかりと準備しておくことが大切です。

プロフィール写真.jpg青木郷(あおき・ごう)

司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。

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