日本は世界一の超高齢社会です。
65歳以上の人口が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と言われています。日本は平成28年度の統計で27.3%。約3人に1人が65歳以上という、ぶっちぎりの超高齢社会です。平均寿命も男性が80.98歳、女性が87.14歳(※)と非常に高齢で、長生きになっています。
長生きをすると、当然、体も衰えてきます。脳も例外ではありません。脳が衰え、認知症等により、次第に判断能力が低下してくると、自分でできることがどんどん少なくなります。そうなると、遺言書を始めとする法律上の対策を取ることも困難になってくるのです。
そんな相続の現場で起きていること、考えなければならないことを、相続、遺言、家族信託支援を専門にする司法書士・青木郷が、実際に事務所で経験した事例も交えながら、全13回にわたって解説していきます。
第6回目の今回は、「法律行為と判断能力」についてご紹介します。
第5回目の記事はこちら→「忘れ去られた口座に数千万円もの財産が!?/法律のプロと相続を考える」
※厚生労働省が発表した2016年の統計データより
認知症を患うと遺言書が作れなくなる!?
私の事務所には毎月だいたい20~30件ほど、相続のご相談が寄せられます。ご自身の相続に関するご相談をされる方もいらっしゃいますが、やはりご両親の相続について相談を持ち込まれる方がとても多いです。
そのようなご相談の際にときおり言われることが、「すでに父親(母親)は認知症で判断力が低下し、1人で生活できないので施設に入っている」という内容です。このようなケースでは、法的な対策を取ることが難しくなります。
契約を始めとする法律行為を有効にするには、自分が何をしているのか、その行為の結果どのようなことが起きるのか判断・予測する力が必要になります。これができない、もしくは低下している場合、契約自体がなかったこと(=無効)になったり、後から取り消されたりする可能性があるのです。仮に遺言書を作っても、相続開始後に「本当に遺言書を作成する判断能力があったのか。世話を焼いていた人間の都合がいいように、作らされたのではないのか」と争いの種になりかねないということですね。
法律のプロが重視する「本人の理解」
お客様の中には、「これまでも、判断が必要なことは自分(=子供)が代わりにやってきている。父親(または母親)は認知症になってしまっているが、名前だけは書くことができるので書類の作成をお願いしたい」という依頼をされる方もいらっしゃいます。ですが、前述のとおり、このようなケースはお断りせざるを得ません。
相続対策に携わる法律専門職は、本人(父親または母親)に判断能力があるか否かの確認に、非常に神経を使っています。また、ご高齢の方には、難しい法律用語や契約書の条文を理解してもらうのが難しいこともあります。そのため、専門用語をなるべく使わず平易な言葉で伝えたり、簡単な言い回しにした説明書をつけたりして、なるべくわかってもらえるように最善の努力をします。
それらはすべて、いざ相続対策を実行した後に、無効になったり、取り消されることがないようにするためです。判断能力の有無、本人がやることを理解しているか否かというのは、それくらい重要な事項なのです。
高齢になって判断能力があやうくなってからでは、自分が希望する相続対策ができなくなってしまいます。ぜひ、元気なうちに準備しておくことをおすすめします。
青木郷(あおき・ごう)
司法書士・行政書士・家族信託専門士・家族信託コーディネーター。開業当初より、相続、遺言、家族信託に特化した業務展開を行ってきており家族信託組成支援を含む相続・承継の支援を行った家族は300世帯を超える。複雑で難解な相続手続きを明快に整理したうえで支援、またそのご家族に合った相続・承継対策を一緒に作り上げている。遺言書作成や家族信託組成支援については、お客様の希望や想いを丁寧にヒアリングしたうえで、税理士、不動産コンサルタント等と連携して支援を行っている。共著に『ファイナンシャルプランナーのための相続⼊⾨』(近代セールス社)、執筆・監修に『わかさ11⽉号 保存版別冊付録【⽼い⽀度⼿帳】』(わかさ出版)がある。