もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。
友人関係をリセットするタイミングを考える
年をとると人間関係がだいじというのは、多くの人が感じていると思います。
よく聞くのは「今のうちに友だちを増やしておかないと」という話。
私は実は友だちがとても少ないです。
付き合いはもっぱら仕事上の知り合い。
その中でもなんとなく気があって、業務上の連絡プラスアルファのメールをしたり、仕事上必要なことでなくても誘ったりする人はいます。
でも、仕事とまったく関係ない人と誘い合わせてどこかに出かけるということは、ほんとうにない。
「なかった」というべきかもしれません。
趣味ができてから、その状況が今ようやくわずかずつですが変わりかけているところです。
他の方は実際にどうしているんだろうと思い聞いてみました。
50代半ばの男性は、仕事を変えたら友人関係がガラッと変わったといいます。
会社の重役をしていたのが、早期に退職しフリーで働きはじめました。
会社にいた頃は、お酒を飲む付き合いが人間関係を築くのには必要という思い込みがあったそうです。
50代の男性からすると自分たちの上司の世代にあたる「団塊の世代」、今は70少し過ぎの世代にそういう考えの人が多く、「嫌なお付き合いもして、飲めない酒も飲んで、そこから始まる」と言われてきました。
フリーになって今つくづく感じているのは、それを真に受けてはいけなかった。
「飲めない酒も飲んで」なんて、人間関係を築くのにはまったく必要ないと言い切れる。
相談事のあるときに「夜にしようか」と言う人は、信用しないそうです。
そこで「試す」と言うと言葉が悪いけれど、「昼でもいいですか」と聞いてみる。
「いいです」あるいは「昼の方がありがたい」という人は信用できる。
それでもって相手がわかると言います。
仕事を変わってから、老後もやりとりできる人って何人いるだろうと指折り数えると、片手で足りるぐらいかもと気づいた。
嫌な付き合いもがまんしてきたけれど残るものではなかった。
仲間でワイワイ、じまん話も遠慮せずにしながら楽しく、そういうのがほんとうの付き合いだと思う。
これまではあまりしてこなかったけれど、これからはそういう付き合いならしていきたいそうです。
「奪い合う関係は嫌です」と言っていたのが印象的でした。
「続く関係があるとしたら、支え合う関係、もしくは奪いも与えもしない関係」、そういうのがいいなと。
「助けてもらう」ための友だち作りはやめる
年をとったときのために今のうちから友だちを作って「おく」というのには、支え合うよりは、支えてもらうイメージがありはしないでしょうか。
反省を込めて言えば、私が30歳になる頃、当時は30が結婚するかしないかのひとつの線引きでしたが、その年齢をひとり暮らしのまま迎える女性が「年をとったらいっしょに住みましょうね」と言うのが、口癖というか、会えば挨拶代わりにする決まり文句のようになっていたのです。
でもそれは幻想。
いっしょに住んだって、自分が頼りたいとき相手が頼っていい状況にあるかどうかもわからない。
頼るイメージがあっても頼られるイメージは持たずに言っていたような。
当時からマイペース人間の私は、友だちと同居できるとは本心では思っていなかったけれど、挨拶代わりにしてもああいうことを軽々には口にすべきでなかった気がします。
「今から友だち作っておかないと」というのも、シニアを前にした私たちには、30を前にしたときの口癖と似たようなものかもしれません。
口癖には心の中に常にあることが表れます。
友だちがいなかったら不安という気持ちはわかるけど、何かのとき助けてもらうことを期待する友だち関係ってあり得るのか、現実問題としてもどこまで機能するのか疑問です。
直接に助けてもらうのは、昔からの友だちよりご近所とかヘルパーさんとかお金を払って来ていただく人のように思います。
直接の助けについてはしくみを別に作り、友だちとは気持ちの面での支えと分けていこうと、今の私は考えています。
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70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています