自分の「終の棲家」となる老後施設。60歳を前に、実際に見学に行ってわかったこと。

もうすぐ60代を迎えるエッセイストの岸本葉子さん。これからの人生のために、さまざまな人の話を聞き、人生の終盤に訪れるかもしれない「ひとり老後」をちょっと早めに考えました。そんな岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(文響社)から、誰にでも訪れるかもしれない「老後の一人暮らし」を上手に楽しく過ごすヒントをご紹介します。

自分の「終の棲家」となる老後施設。60歳を前に、実際に見学に行ってわかったこと。 pixta_28046814_S.jpg

近所の施設の見学にさっそく行ってみました

超高級シニア向けマンションを見に行ったことがきっかけで、近くの施設をホームページでなんとなく見るようになりました。

その中のひとつを実際に見学に行ったんです。

はじめて知ったことがたくさんありました。

よく「施設類型」として、こまかな字がたくさん書いてあります。

私の見学したところは「介護付有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護)」。

これを読んで何のことかわかる人は、ほとんどいないでしょうけれど、この「特定施設」というのが、私にはとてもだいじだと思いました。

介護保険に申請して、認定された介護度に応じた額いっぱいいっぱいを使った介護を、この施設で受けられる、ということらしいです。

介護保険を利用せずに、介護サービスのすべてを「買って」いたらたいへんです。

私が施設に入るとしたら、そこに住みながら介護保険を使っての介護を受けられるところにしたい。

これまでも私は、雑誌で高齢者施設の記事があるたび、気になるテーマだから切り抜いて保存するけれど、正直、こういう類型が頭に入らなかったんです。

でもこれからは「特定施設」かどうかは必ずチェックしよう。

そう実感できただけでも、見学に行ってよかったです。

医療との連携は何らかの形でほしいと思います。

親の介護のとき何が不安って、家にいて具合が悪くなることでした。

ほんとうに倒れたら迷わず救急車をお願いしますが、高齢者の症状の出方は緩慢です。

単に疲れているのか、眠いのか、寝ればすむのか、それともただちに処置を要する危険な状況なのか、家族には判断がつかない。

自分となれば、なおさらでしょう。

思いきって救急車を依頼したこともあります。

それでもすぐに病院にかかれるとは限らないのです。

なぜか夜間、それも土日とか正月に具合が悪くなることが多く、そうすると夜間救急や休日救急をしているところはわずかで、お医者さんの数も少ない。

救急車が出発できるまで50分かかったときもありました。

救急隊員の人が電話で探してくれるのですが、だめ、また次もだめで。

そういうことがあるって聞いていたので私は、親が通っていた大病院の先生と、付き添いで行ったときに話しておいたのです。

家にいて夜、具合が悪くなったりしたら不安だと。

「いつでも来てください。消化器外科の山田(仮名)の患者ですって、電話口で言ってください」と言われて、心強く思っていました。

が、実際に具合が悪くなったとき、まずその病院の夜間受付に電話して「これから救急車で行きます。消化器外科の山田先生からいつでも来るように言われています」と告げると、「でもベッドがありません」。

救急隊員の人にまた、「何々病院の患者です。電話したらベッドがないって言われましたが、消化器外科の山田先生からいつでも来るように言われています」と、その病院の診察券を示して訴えましたけど、「先生方はみんなそう言うんだよね」と救急隊員の人に言われて、がっくり来ました。

費用の問題もあります。

親を在宅で介護していた最後の方では、施設を探す話もケアマネージャーさんとの間で出ていました。

そのときケアマネージャーさんから言われました。

ある程度の医療行為のできるところがいい、そうでないと、施設に例えば月々30万払って、そこをキープしたまま病院にまた入院代を払うと、二重にお金がかかってたいへんだからと。

自分が「終の棲家」としての施設に求めることは何ですか?

施設に入るなら、医療との連携がほしい。

具合が悪かったら、処置が必要な状況かどうかを、看護師さんなりに聞けて、看護師さんが危険と判断したら、何らかの医療行為ができる。

施設と契約しているかかりつけ医が往診して、かかりつけ医の管理の下で看護師さんが継続的なケアをするとか、それで対応しきれない場合は、病院を自分で探さなくても搬送してくれるとか、そういう仕組みのあるところがいいと。

見学に行った施設は、その点はよいと思えました。

パンフレットによると、24時間看護スタッフが常駐とあり、できる医療行為のリストもある。

ただ、病院ではないのですべての医療行為ができるわけではなく、治療が必要になったら、病院へ移ることもあるそうです。

訪問診療を行っているクリニック4つと契約をしていて、入居者はその中から選んでかかりつけ医となってもらう。

かかりつけ医となった先生は、月2回往診に来てくれる他、具合が悪くなったら看護師からその先生に連絡が行き、入院が必要だったらどこの病院に搬送したらいいかを、先生が決めてくれます。

退院するときも、入院した病院の医師に、施設の看護師さんが申し送りを受けて、適したケアを施設に戻ってからもするということです。

通院の際は送迎もあると聞きました。

病気でなくても介護度が上がって、それでも住み続けることができるかどうかや、認知症のケアも受けられるかは、ぜひ確認したいところです。

介護依存度が高くなったら出てください、認知症になったらいられませんでは、私にとっては入る意味がありません。

認知症が進行し暴力的になって施設を出された、という例もニュースなどで漏れ聞きます。

私の見学した施設も、周囲への過度の影響がある場合は退所となるそうですが、実際にそうなった例はひとつもないとのこと。

そうなる前に専門医を受診し、投薬など適切な処置をすることで対応できているそうです。

【最初から読む】今暮らしている家、いつまで住むつもり?

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自分の「終の棲家」となる老後施設。60歳を前に、実際に見学に行ってわかったこと。 139-H1.jpg

70代から90代の一人で暮らす女性たちの生活から見えてきたひとり老後のコツや楽しみ方が全7章で紹介されています

 

岸本葉子(きしもと・ようこ)
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。食や暮らしのスタイルの提案を含む生活エッセイや、旅を題材にしたエッセイを多く発表。同世代の女性を中心に支持を得ている。著書に『ちょっと早めの老い支度』(オレンジページ)、『50歳になるって、あんがい、楽しい。』(だいわ文庫)、『人生後半、はじめまして』(中央公論新社)など多数。

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『ひとり老後、賢く楽しむ』

(岸本葉子/文響社)

ひとり暮らしで不安、お金の問題など誰もが老後の生活を不安に思うものです。90代のひとり暮らしは何を手伝ってもらえばいいのか、80代で老人ホーム入居を考えているのか、現在、ひとりで過ごす高齢者の声も集めました。早めに準備をはじめて、不安や恐怖をなくせる、老後を楽しむための参考書です。

※この記事は『ひとり老後、賢く楽しむ』(岸本葉子/文響社)からの抜粋です。

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