老けない脳を作り出す! 年を重ねてもできる「脳トレーニング」

「あの人は間違っている」「あんなことをするなんて許せない」...と強く思ったことはありませんか? 脳科学者の中野信子さんは「人間の脳は仕組みとして他人に正義の制裁を加えることに快感を覚えるようにできています」と語ります。その中野さんの著書『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)では、脳科学的観点から見た「ネット社会にはびこる正義中毒」や「日本特有の社会的な仕組み」などを解説しています。今連載では、「心穏やかに過ごすため」のヒントにつながる5つの記事をご紹介していきます。

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脳は経験で進化できる

人間を含め、生物の遺伝的な性質の進化(あるいは退化)には何世代もの時間が必要ですが、個々の人間の性格や考え方、そしてその総体である集団の振る舞い、さらにその延長上にある世論や社会常識のようなものは、世代を経なくても変えることができます。

これは前頭前野の持つ大きなメリットの一つで、他人や周囲の影響を受けながら、振る舞いを一世代(つまり一人の人間における人生のなか)で変化させることができるのです。

最近の例で言うと、近年の日本におけるLGBTの急速な社会的受容に伴う諸変化が挙げられます。

人間の脳は、自らの構造を観察し、フィードバックを得て自らを変えていく機能を持っています。つまり、脳自体が自分の働きを一つ上の層から俯瞰することができ、「自分にはこういう傾向があるから、今後はこうしよう」という具合に修正できるのです。

これは生存戦略上、大きなアドバンテージで、私たちはこの働きの高い人を「頭が良い」と形容するようです。

一方で、これは前頭前野が担っている機能ですから、加齢とともにやがて働きが衰えて、行動を変えにくくなり、頑固で保守的な考えになったように見えることもあります。

この機能にも当然個人差はあるのですが、高機能であればいいのかというと実は微妙で、高過ぎると今度は調整し過ぎてややこしいことになることもあります。

どこまでの「高さ」なら適度なのかははっきりしません。

ただ、どんな資質でも極端に振れ過ぎると人は生きづらさを感じがちになるようです。

老けない脳と老ける脳の違い

「人を許せないこと」に悩むみなさんは、「許す」ための大きな足がかりである前頭前野が、加齢に伴って萎縮してしまうという事実に、がっかりしてしまったかもしれません。

残念ながらこれは事実であり、脳の細胞は、加齢とともに死んでいきます。

高齢になっても、前頭前野における神経新生(神経細胞の元となる神経幹細胞が、神経細胞へと分化すること)は起こるのですが、生まれた神経細胞が髄鞘化されなかったり、神経回路に組み込まれないまま死んでしまったりします。

ただし、ここにも個人差があります。

脳もあくまで体の一部なので、その部位をよく使っている人とそうでない人とでは機能に違いが出てきます。

例えば、無理な食事制限をしたり、強いストレスがかかったりすると、脳の神経細胞の形成そのものにも影響があります。

どんな人でも、若い頃に作り上げた前頭前野の機能をそっくりそのままキープして、フルパワーで使い続けられるということはありません。

30歳のときと、60代、70代の脳の機能はかなり異なりますし、同じ処理を行っているようでも、担当している神経細胞を構成する物質が消耗品のように入れ替わっていて、全体としては減少していきます。

ベストコンディションの頃の脳の機能を、努力によって何十年も保ち続けることは、ほとんど不可能と言わなければなりません。

一方で、「あの人は歳を重ねて発言に重みが増した」などと呼ばれる人も少なからず存在します。

これは、加齢によって多くの人の脳が衰えていくなかで、相対的に衰えにくい人もいて、なかには若い頃よりも高いパフォーマンスを発揮する人がいることを示しています。

脳科学の観点から脳を衰えにくくするための方法や習慣は存在します。

ここでは、日常生活のなかで前頭前野を鍛えるための方法をいくつか考えてみましょう。

老けない脳をつくるトレーニング

前頭前野は分析的思考や客観的思考を行う場所です。

ここがうまく働いていれば、目先の損得に惑わされず、長い目で見たときの得を選びとることができ、社会経済的地位も高くなることがわかっています。

何らかの衝動を押し殺したり、やむを得ず状況に合わせたりするという状態であれば、一応前頭前野は働いていると考えられます。

前頭前野が衰えていない人は、普段から「自分はこう思う」「こうに決まっている」といった固定化された通念や常識・偏見をうのみにせず、常に事実やデータを基に合理的思考や客観的思考を巡らせている人だと言えるでしょう。

ということは、日常的に合理的思考、客観的思考ができるようなクセをつけておく、あるいはそうせざるを得ない状況に身を置いておくと、前頭前野は鍛えられ、衰えを抑制することが期待できる可能性があります。

前頭前野の働きが保たれていると、前頭前野の重要な機能である「メタ認知」を使うことができます。

メタ認知とは、自分自身を客観的に認知する能力のことです。

もう少し詳しく説明をすると、「自分が××をしているとわかっている」「自分がこういう気持ちでいることを自覚している」ということです。

「私は今こういう状態だが、本当にこれでいいのか?」と問いかけることができるのは前頭前野が働いているからであり、メタ認知が機能しているからなのです。

常に自分を客観的に見る習慣をつけ、メタ認知を働かせることが、前頭前野を鍛えることにつながります。

いつも予定がいっぱいで忙しく過ごしているよりも、自分を振り返る余裕を持つことの方が、前頭前野を鍛えるためには大切なことと言えるでしょう。

それでは毎日の生活のなかで、どのようなことを心がけるといいのかを見てみましょう。

①慣れていることをやめて新しい体験をする

新しい体験と言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、慣れている物事とは少し違う物事を選ぶようにしてみましょう。

日常的に慣れてしまっていることだと、脳には新しい刺激があまり入らなくなっていくため、前頭前野ばかりでなく、脳そのものが活動する機会が奪われていきます。

一方、慣れていないことに直面すると、脳には活発に働く必要が生まれます。

日常生活に当てはめた形で、具体的なシチュエーションをいくつか考えてみます。

【ポイント】いつもと違う道順で歩く

通勤で自宅から駅まで向かうとき、近所のコンビニに買い物に行くときなど、決まった場所を移動するときに、意識的に道順を変えてみましょう。

道順は、だいたい「最短距離を選ぶ」、あるいは「ついクセで、何となくこのルートを使っている」などといった理由で、特に深く考えず「いつもと同じ」選択をしている場合が多いものですが、あえてそうではない選択をしてみるのです。

道順すべてを変更しなくても、例えば、大通りでいつも右側の歩道ばかりを歩いていたけれど、意識して左側を歩いてみる。

道を横断するとき、いつもと違う信号を渡ってみるといった、ちょっとした変化でも構いません。

こういった「日常とは異なる行動」が前頭前野の活動を促します。

そうすることで、今まで気づかなかったような、新しい視点からの発見の喜びも得られるでしょう。

それが、脳にとってはすばらしい報酬になるのです。

【ポイント】「いつものメニュー」や「いつもの店」を変えてみる

食事も日々の生活で欠かせないものですが、例えば外食ならば、いつも頼んでいるメニューではなく新しいメニューにしてみる、いつも行っている定食屋ではなく新しいレストランを開拓する、といった行動が前頭前野を賦活させます。

買い物をするときも、あえて違うスーパーに行ってみたり、普段は買ったことのないものを買ったりするとよいでしょう。

慣れから外れたところに身を置くことを意識しましょう。

同様のパターンは、いつもと違うファッション、いつもと違う旅行先......などなど、無数にあります。

そのなかから、普段の生活で行うことが多い項目を変えるようにすると、前頭葉が刺激される頻度が上がっていくでしょう。

【まとめ読み】「人は、なぜ他人を許せないのか?」記事リスト

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ネットの影響で増中の「自分が正しい!」という「正義中毒者」に陥らないための考え方を4章に渡って解説

 

中野信子(なかの・のぶこ)
医学博士/脳科学者/認知科学者。フランス国立研究所「ニューロスピン」に博士研究員として勤務。帰国後は脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象および人物を読み解く語り口に定評があり、テレビのコメンテーターとしても活躍中。『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』(アスコム)など著書多数。

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『人は、なぜ他人を許せないのか?』(中野信子/アスコム)

ネット上で正義を振りかざす人間のさが、空気を読みすぎるが上に起こる日本社会の特殊性など、日常生活で頭を悩ます日本人特有の問題を、脳科学的に徹底解説! SNSのつるしあげ、集団ルールに逆らう難しさなどのテーマが散りばめられた、数々のベストセラーを生み出してきた著者の話題作です。脳の仕組みを知ることで、デジタル社会が進む生きづらい時代を暮らしやすくするためのヒントが綴られています。

■『人は、なぜ他人を許せないのか?』の紹介動画もチェック!

※この記事は、「人は、なぜ他人を許せないのか?」(中野信子/アスコム)からの抜粋です。
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